ケイと圭介の事情(リレー完全編集版)-3
「中嶋……今、なんて言った? あたしが凶暴でガサツだって……」
「おう、言ったぞ。なにか間違いがあったか? どう見てもお前の場合、手作りの弁当とか作りそうにないし仮に作ってきたとしても食べるのには相当の勇気が必要だろ」
幸司は笑いながら更に言い続ける。
「それに、凶暴性だってこの一年半の間に十分過ぎるくらい我が身で実証してるぞ。どれだけ俺がお前にシバかれた事か…何回か保健室直行ってのもあったっけなー」
どうだと言わんばかりに幸司は言うけど、お前自身もその地雷に飛び込むところはこの学園に入学して以来の付き合いだがちっとも変わってないのなぁ…。
「ふ〜ん…言いたいことはそれだけ…? それじゃあ、今回も保健室送りにしてあげるわ。ついでだからそのおバカな頭をもう少し賢くしてあげるわね。……ふふふ…感謝してよね…」
香織は何処からともなく竹刀を持ち出し、中段の構えをとり幸司に向かい合うと凄まじい殺気を放つ。
そういや、朱鷺塚って剣道部員でその実力は全国大会レベルだったよな…。
それを知っててちょっかいを出す幸司ってやっぱりバカかもしれない。
「ちょ、ちょっと待て朱鷺塚! 竹刀はやめろ! 暴力反対っっ!! ○ゃんまげに言いつけるぞ!」
「もう遅いっ!! 中嶋っ! あとは保健室で反省しろっっ!!」
香織は鋭い踏み込みであっという間に訳の解らんことを口走る幸司との間合いを詰めると、まさに電光石火の如く手加減なしの面を幸司の頭に叩き込んできた。
しかし、香織の攻撃はその一撃だけでは終わらず、離れ際に追い討ちの胴と面を更に打ち込んでいった。
「ふんっ」
香織が幸司に背を向けた瞬間に幸司が前のめりに倒れる。
香織は自分の竹刀を片付けると智香達のところに戻っていった。
「いやぁ朱鷺塚さん、貴女は漢です!」なんてことは思っても決して口には出せないけどね…俺はそこに倒れてる命知らずじゃないから。
「お〜い、幸司。生きてるかぁ〜?」
「スマン…圭介。俺を保健室まで運んでプリーズ……ガクッ」
はぁ、しょうがねぇな。
こいつ重いけど保健室まで運んでやるか。
「メシ食べ終わった後でな」そう言うと圭介は幸司をしばし放置して昼食をすませた後に幸司をかかえて保健室に向かった。
教室を出る際、香織に「そんなのそのままほっとけばいいのに。相沢、友達は選んだ方がいいわよ」と言われたのはご愛嬌である。
香織に打ちのめされた幸司を保健室に運び、保健医に「またか」と笑われながら幸司をベッドに放り込み保健室を出る圭介。
自分の教室の近くで圭介は一人の女子生徒と遇った。彼女は長い黒髪を揺らしながら圭介に「こんにちは」と優しい笑顔で挨拶をしてきた。
彼女の名前は『朱鷺塚香澄』といい、圭介のクラスメイトの朱鷺塚香織の姉である。
彼女とは香織や智香を通して何度か挨拶を交わす程度の知り合いであるが、ケイの姿の時に男に絡まれていた香澄を圭介は助けておりその時以来、ケイとしての圭介と香澄はそれなりの仲になっていた。
現時点では香澄はケイが圭介であることは知らないし、モデルをしてることも知らない。
当然だが圭介もそのことは言えずにいた。
「朱鷺塚先輩、こんにちは。どうしたんですかこんなところで? 三年の教室は三階でしたよね」
圭介達二年は二階に教室があり、三年である香澄は二階に来ることはまずないので不思議に思った圭介は香澄に訊ねてみた。
「ええ、香織ちゃんに用事がありましてこれから伺うところなんです」
「それなら俺が呼んできましょうか?」
「いえ、お心遣いだけで…香織ちゃんの教室もすぐそこですから」
香澄は柔らかい口調でそう圭介に話しながらも、続けて「では、一緒に教室に参りましょうか」と言い二人で教室に行くことになった。