ケイと圭介の事情(リレー完全編集版)-15
「……お、俺反対」
やっと声を出したのは圭介。
幸司に嫌そうな顔を向ける。
幸司は肩にポンっと手を乗せると、にこっと笑った。
「無理♪」
「ああなった朱鷺塚は誰にも止められねーよ」と呟き幸司も教室へ戻っていった。
遅れて圭介達が教室に戻ると、すでにバンドメンバー選考会が始められていた。
放課後だったが奇跡的にクラス全員が残っていたのだ。
みんな暇なのかよ…。
盛り上がっている教室に静かに入り、ため息をつきながら圭介は席に着いた。
「んじゃとりあえず、歌うのはケイね」
「え!?」
さらさらと黒板に決まったことを書いていく香織に圭介は一人滝汗を流している。
「ま…待て!! それは無理だ、俺あんま歌は…」
とっさに我を忘れて反論してしまった。
「何言ってんの、相沢じゃなくてケイが歌うんだってば」
いや、そうなんだけど…。
そんなことを思いつつ、頭を抱えた圭介をよそにバンドのメンバーがどんどん決まっていくのだった。
俺はどうしたらいいんだろうね…。
そんな感じで途方に暮れている圭介だったが、香織は携帯片手に話を進めていく。
恐らく相手は奈津子だろう。
「それじゃあ、今度の日曜日にケイと一緒に打ち合わせするからバンドメンバーは9時に駅前集合ね!」
香織は大きな声で指示を出すと、右手で握り拳を作りポツリと呟いた。
「フッフッフ…見てなさいよ藤崎。学園祭でキッチリ勝負をつけてあげるわ…」
うわっ。朱鷺塚マジ怖いよ…。
学園祭の打ち合わせも終わり、さっさと家に帰る圭介だったがその足取りはとても重かった。
幸い圭介はバンドメンバーから外れたので明日からの練習とやらに参加しなくてもいいのだが、それよりも『ケイ』としてライブに出るハメになったことが今の圭介には一番憂鬱だった。
そして家に帰ると意気消沈してる圭介に止めを刺すかのように奈津子がリビングで母と一緒にお茶を飲みつつバカ笑いしていたのだ。
「おかえり、この人気者!」
持っていたカップを置き、満面の笑顔で出迎える奈津ねぇと「良いタイミングで帰ってきたわね」と微笑むマイマザー。
そして、その二人の様子を見て持っていた鞄を落とし、両膝と両手を床につけて四つん這い状態でうなだれる俺がいた。
「母さん、ひょっとして…」
嫌な予感満載の中、俺が恐る恐る聞く。
「なっちゃんから全部聞いたわよ〜」
心から嬉しそうに微笑む母さんだった…。
「圭介くんがモデルになってからどんどん人気者になっちゃって母さん嬉しいわぁ」
「いや…女装でモデルやって知名度が上がっても俺は全然嬉しくないんだけど…」
母さんが盛り上がるのに対して、どんどん気分が滅入ってくる俺を見てニヤニヤと笑顔で事の成り行きを楽しそうに見ている奈津ねぇ。
本当にもう勘弁してくれよ…。
「母さん、見に行くからね。ちゃんとやるのよぉ。それから、お父さん休み取れるかしら?」
「いやいや!! 二人とも来なくていいから! てゆうかお願いだから来ないでください」
必死で謝るように説得する圭介を奈津子はやはり楽しそうに眺めていた。
「圭介としては何やるの?」
奈津子は圭介を見ながら、もっと面白おかしくならないか探りを入れてきた。
圭介はげんなりして面倒くさそうに答えた。
「大道具…当日さすがに動き回れないから何とか裏方に…あーもう! 歌とか無理!! 練習やだぁ本番フケたい…でもんなことしたら……」
朱鷺塚の怒る顔を想像するだけでゾッとした。
当日逃げたら怒るのは朱鷺塚だけではない。
クラス中、学校中からクレームが来るだろう…色々考えると、なおさら嫌になってきた。