ケイと圭介の事情(リレー完全編集版)-14
「安奈先輩。これ、ウチのクラスの相沢です。智香のお兄ちゃんなんですよ」
朱鷺塚、俺は「これ」扱いなのかよ…。
俺を「これ」扱いしたことに、全然悪びれる様子もなく笑顔で俺を紹介をする朱鷺塚から俺に視線を向けた広瀬先輩は椅子から立ち上がると満面の笑顔で自己紹介をしてくれたのだった。
「キミが智香のお兄さんね。ボクの名前は広瀬安奈だよ。学園祭の実行委員長をさせてもらってます」
まあ、挨拶をされたなら俺も自己紹介をしなくちゃと思ったので出来るだけ丁寧な挨拶をする。
「初めまして、広瀬先輩。俺は相沢圭介といいます。まあ、ご存知の通り智香の兄貴です」
圭介が軽く頭を下げると香織がいきなり笑い出した。
「あはははっ! 相沢、いつもと態度が全然違うよぉ。おかしいー!」
香織が腹を抱えて笑い転げてるのをよそに安奈は圭介の顔を値踏みをするような目付きでジロジロと観察してきた。
「ふーむ…よく見るとキミって可愛い顔してるね」
人の顔を見るなり何を言い出すんだこの人はぁ!?
動揺する圭介を見ると安奈はニコッと笑顔を見せ、納得したみたいに頷くと中嶋の方に視線を変えたのだった。
「ちょーっと話が横道にずれたけど、今日、キミ達に来てもらったのは学園祭のクラス企画についてなんだ」
安奈が学園祭の話を始めた途端、笑い転げていた香織と苦笑していた幸司の表情が真面目になった。
「噂で聞いたんだけど、今度の学園祭に2‐Aはモデルのケイを呼ぶって聞いたけどこれって本当なの?」
真顔で安奈が聞いてきたので香織達は素直に返事をした。
「でも、2‐Aはまだ企画書が提出されてないから何をするか決めてないのよね」
「はい。恥ずかしながらウチのクラスの出し物はまだ未定です。広瀬先輩」
続けて問いかけてきた安奈に幸司がバツが悪そうに頬を掻きながら答えた。
「それならちょうどいいや。キミ達、2‐Cがタレントの藤崎美弥を使ってライブをすることになってるのは知ってる?」
「「はい」」
俺達は返事をする。
すると安奈は満足そうな笑顔を見せ話を続けた。
「さっき考えたんだけど、学園祭実行委員会主催で2‐A対2‐Cでライブ対決をしてもらいたいんだけどどうかな?」
「「ええっ!?」」
安奈の突然の提案に驚いたのは圭介達だけではなく生徒会長である千鶴も同様だった。
「ちょ、ちょっと、安奈。あなた何考えてるの!?」
千鶴は驚きを隠せない表情で作業の手を止め安奈に詰め寄った。
生徒会長である千鶴は真面目なことで有名なのだが、正直ここまで驚いてる顔を見るのは信じられないことだった。
そんな千鶴のことなどお構いなしといった感じで安奈は千鶴の肩をバシバシ叩きながら実行委員ここに在り的なことを言い放ったのだ。
「千鶴は真面目に考えすぎだって。学園祭はみんなが楽しめればそれでOKだよ。クソ真面目な出し物しかない学園祭なんて学園祭じゃないよ! それこそ学長が怒り出すってば」
安奈がそう言うと今度は圭介達を指差し強権を発動させてきた。
「そんな訳だから、企画の下準備は実行委員会でしておくからキミ達は急いでバンドを組む準備をしてっ! さあ、これから忙しくなるよー!」
そう言うと安奈は圭介達を生徒会室から追い出したのだった。
廊下に出された俺たちは急遽その場で緊急会議を開いた。
…といっても三人で。
「…広瀬先輩本気かよ?」
「安奈先輩の張り切りよう…あれは本気よ」
「バンドなんていきなり無理だろ!?」
廊下にしゃがみこんでぼそぼそと話し合いをする三人。
「でもさ…ちょっと面白そうじゃない?」
圭介がさんざん「無理だ、やめよう」と言っている最中に香織がぽつりと言った。
その顔は実に好奇心に溢れている。
「中嶋、あんた確か軽音部に友達いたよね!?」
「え!? まぁ居たけど…」
圭介と幸司は顔を見合わせ「まさか!?」と笑う。
「よし! じゃあ、楽器借りといて!! 今日中にメンバー組んで明日には練習始めるわよ!」
香織は拳を握り締め、すっくと立ち上がると笑顔で走っていった。
何にでも燃える香織はやることが決まるとテンションが上がっていた。
男二人は物凄い勢いで廊下を駆けて行く彼女を、口をぽかんと開けて見送っていた。