ケイと圭介の事情(リレー完全編集版)-12
しばらくすると香織はニコニコと満足そうな笑顔で教室に戻ってきた。
「みんな聞いてー。学園祭にケイを呼ぶのOKだってよ!」
香織の一言にクラスの女子のテンションが一気に上がったのだが、ケイの人気をイマイチ理解できていない幸司を始めとする男子生徒達はポカンとしていた。
当然ながら俺は失意のどん底である。
香織が廊下に出て行ってから今現在までのあっというまの進行に呆然としていた幸司だったが、我に返ると香織に詰め寄った。
「朱鷺塚。そのケイってモデルがどれくらい人気があるのかわからんが、プロのモデルを呼んだらギャラが発生するんじゃないか? クラスの予算じゃ賄えないだろ!」
幸司の心配は至極真っ当なものだった。
「ふふん、その心配は無用よ。奈津子さんに相談したらノーギャラでいいって言ってくれたわ。その代わり当日は奈津子さんも来るって言ってたけどね」
どうだと言わんばかりに胸を張る香織。
ああ…もう、この話で奈津ねぇが何を考えてこの話をOKしたか容易に想像できてしまう俺が恨めしいよ。
事実、奈津ねぇは俺が困り慌てふためく姿を見るのは自分のレジャーの一環だと以前に豪語してたからな。全く何を考えて生きてるんだかあの悪魔は…。
「ん、圭介。顔色が悪いが大丈夫か?」
香織と話をしてたはずの幸司だったが、気が付くと圭介のところに来てマジマジと顔を近付けて見ていた。
「うわーっ!! だ、大丈夫だから!! そんなに顔を近付けるな!」
いきなりのことで慌てた圭介は幸司の顔を両手で挟むと力任せに横に向けた。
その際、グキッと嫌な音もしたが聞かなかったことにしよう…。
「け…圭介。てめぇ……」
それだけを言うと力なく倒れる幸司。
すまない幸司。でも、お前も悪いんだぞ。
そう心の中で呟きながら両手を合わせ拝む圭介に香織が話しかけてきた。
「全く、このバカは一体何を考えて生きてるんだか。ま、いいわ。それより相沢、あたしの変わりにケイにお礼を言っておいてね。当日にもちゃんとお礼はするけどね」
香織はそう言うとそのまま教卓に向かい、圭介の足元に倒れている幸司に代わり議題の進行を始めた。
「中嶋はしばらく起きてこないからあたしが進行役を務めさせてもらうわね。さっきも話したとおり我がクラスは2‐Cの藤崎美弥に対抗する為、ファッションモデルのケイに来てもらうことになりました」
教卓に手を乗せ力強く話を進める香織の姿に何故か眼を奪われてしまう圭介。
「そこで今回、ケイという強力な助っ人が来てくれるのだからあたし達も彼女の魅力に負けない位の企画を用意したいと思います。みんなもいいアイデアがあったら遠慮なく発言して下さい」
「って、ちょっと待ったー!!」
圭介の足元で倒れていた幸司が急に復活し、起き上がるや否や右手を高々と上げ、ズカズカと香織のところへ歩いて行った。
「朱鷺塚! なんでお前が仕切ってるんだよ! この場の仕切りは俺の役目だろ」
「あら、以外と早い復活ね。でも、あんたの仕切りじゃ心配だからこのままあたしが進行してあげる。だから自分の席に戻っていいわよ」
ニコニコと笑いながらシッシッとまるで犬か猫を手で追い払うようなジェスチャーで幸司を挑発する香織だった。
「お…お前なぁ…」
あからさまな香織の挑発に幸司が乗るかと思っていたが、今回の幸司は冷静だった。