刃に心《第12話・サイレントトランスファー〜無口な転校生》-7
───トン…
(…えっ…?)
身体が傾く。視界の隅には大型のトラック。ゴテゴテとした飾りに当たったら痛そうだなと漠然と思った。
「ぐおっ!?」
突然、息が詰まった。
そして、ゴンッという音と共に後頭部に鈍い痛みが走る。
「だ、大丈夫か!?」
空をバックに武慶の顔が見える。
「びっくりするだろ!いきなり倒れやがって!後ちょっと遅ければ挽き肉だったぞ!」
「あ、ああ…」
頭がぼんやりとしている。
武慶の説明では、疾風が突然倒れてトラックに轢かれそうになり、それを襟首を咄嗟に引いて助けたということだった。
ただ…疾風の背中には軽く押されたような感触がまだ残っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「では、今日も張り切って行ってらっしゃ〜い♪ただ、手を出したらぶっ殺す!」
彼方がブンブンと手を振る。
はぁ…と溜め息が出た。
最近と言うか此所一週間程、溜め息が多くなった為か不幸続きであった。
とにかく、疾風はネガティブな思考を停止させ、今日は何の話題でいこうかなと思いつつ、今日も刃梛枷の元へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「うぅ〜!」
その背中を見ながら、楓は唸っていた。
「や、やっぱり…二人で行くべきなのでは…」
ガタンと椅子を揺らし立ち上がる。
「だ〜め!かえちゃんは此所で大人しくしてるの!」
それを希早紀が下から楓の身体を掴み、抑える。
「かえちゃんは疾風君のこと信じてないの?他の女の子に靡いちゃうような男だと思ってるの?」
「そ、そんなことは…」
「じゃあ、大人しく待ってなさい。これは言わば愛の試練!これに耐えた時、二人の仲はさらに深いものに…♪」
恍惚とした表情の希早紀。
「そ、そういうもの…なのか?」
「そうだよぉ♪」
「う、う〜む…」
後ろ髪を引かれつつも、楓は渋々と席に座った。
「でも、希早紀って自分事に関しては鈍いよね」
「うん。鈍いね」
間宮兄弟がポツリと呟き、視線を動かす。向かった先にはパックジュースを片手に持った武慶がいる。
「「………」」
「な、何だよ!こっち見んな!」
「ガンバ」
「ファイト」
「憐れむな!励ますな!」
「春よ〜」
「遠き春よ〜」
「歌うな!」