刃に心《第12話・サイレントトランスファー〜無口な転校生》-2
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「知ってる人もいるかと思いますが、今日は転校生が来ています」
このクラスの担任である『君塚 美樹(キミヅカミキ)』25歳は言った。
彼女は、疾風達のクラスの担任兼国語教師にしてもう20代も折り返し地点なのに彼氏がおらず、周りには子供たちが彼氏ですと言い張っているが、昔の友達の明るい噂を聞く度に、アレ…私ってヤバいくない?と思っている女教師である。
「…酷い…初登場なのに…先生泣いちゃうよ…」
貴女にはそのうちいい人が現れると思うんで、とりあえずさっさと進めてください。今日のメインは貴女じゃないんですから。
「うぅ…じゃあ進めますよ…どうぞ…入って下さい」
「……よろしくお願いします…」
「ひぇっ!?」
君塚教師が頓狂な声を上げた。それもそのはず、すぐ横で小さな声がしたから。
150cm程の小柄な身体。
肩までで切り揃えられている漆黒の髪。
そんな少女が無表情で立っていた。
「アレ…いつの間に…」
疾風は小さく呟いた。ボォ〜としていたからとはいえ、足音も気配もしなかった。
見れば、クラスのほとんどがいつの間にか入って来ていた転校生に驚いている。
「えっと…ごめんね…じゃあ、名前を黒板に書いてもらえるかな?」
コクリと無言で頷くと白いチョークで黒板をなぞっていく。
「……『黒鵺刃梛枷』(クロヤハナカ)…」
転校生は向き直ると名前を告げた。
「彼方…何か…愛らしさのカケラもないんだけど…」
刃とか枷とか入ってるし…
「…でも本人は可愛いから許します♪」
トリップしたままの彼方の目尻はにへら〜っと垂れ下がっている。
それを見ながら疾風は思った。
末期だな…と。
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「う〜む…」
「どうしたんだ?」
疾風は腕組みをして唸る彼方に問い掛けた。
「難易度が高いんだと」
武慶がその問い掛けに答える。
「基本的に無視なんだよ…あの娘…」
彼方が刃梛枷の背中を見て言った。刃梛枷は一番前の窓際の席に座り、本を読んでいる。
「それは彼方だからだろ?相手も本能的に危ない奴だと思ってんじゃない?」
「いや、そうじゃない。確かに女子にしてみれば彼方は危ないが、黒鵺は何て言うか…」
「チクショー!お前ら友達だと思ってたのに!そんなに俺は飢えているのか?そんなに俺は節操が無いのか?」
「ああ。お前は愛の欠食児童だ」
「俺は将来、彼方が新聞に乗らないことを祈ってるよ」
「チクショー!そこは、そこまでは言ってないとか言うだろ、普通は!?」
「で、どういう風に違うんだ?」
「う〜ん…上手く説明が出来んが、例えばアレを見てみろ」
武慶は刃梛枷を見るように促した。
見れば、一人の女子生徒が刃梛枷に話しかけようとしている。