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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第12話・サイレントトランスファー〜無口な転校生》-3

疾風達の場所からでは何を話しているのかが判らなかったが、雰囲気から少しでも仲良くなろうと適当な話題を振っているようだ。
刃梛枷は本から視線を外し、顔を少しだけ上げた。その黒瞳に感情と言うものは見られない。
女子生徒の方は必死になって話しかけているが、刃梛枷は相手をじっと見つめたままだった。
口は閉ざされ、どう見ても会話のキャッチボールが成立しているとは思えない。
しばらくすると、諦めたようにトボトボと女子生徒は自分の席に戻っていった。

「な、判るだろ?」
「ああ」
「何か…こう…難しい奴なんだよ。全てを風景としか捉えていないような…」

刃梛枷は相手が去ると何事もなかったように本に視線を戻した。

「あぁー!判らねえ!どうしたらフラグが立つんだ!?2周目か!?2周目に新たなる選択肢がでるのかー!?」
「い、いかん!彼方が壊れた!」

いきなり、叫びだした彼方を武慶が慌てて押さえ付ける。
その様子に苦笑しながら、疾風はちらりと刃梛枷を見た。
騒ぎなど聞こえていないように刃梛枷の細い指は黙々とページを捲っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇

その日の帰り道。楓と疾風は住宅街を歩いていた。両側にはマンションが建ち並んでいる。

「ふむ。なかなか難儀な奴だとは思っていたが…」
「シイタケとしては委員長として責任があるからさ。お節介と言ったらそれまでだけど、楓からも黒鵺に話しかけてくれないかって」
「判った。シイタケには何かと世話になっておるからな」

楓がそう言った瞬間。
疾風はいきなり、楓の手を握り、抱き締めるようにして横に跳んだ。

「な、何を…こ、このような誰が見ているかも知れぬ場所で……」

楓が疾風の腕の中で顔を紅くしながら呟いた。

───ガッシャアアアン!!!!

響く破砕音。
それまで二人がいた位置にはコンクリートに叩き付けられ、粉々になった鉢植えがあった。

「大丈夫?」

疾風は手を放した。

「ぁ…あぁ…」

楓の口から少し残念そうな声が漏れる。
疾風はマンションを見上げた。最上階の部屋のベランダ、そこの手摺部分に幾つか鉢植えが吊り下げられていた。その中の一つが落ちたのだろう。

「あ、危なかったな…お前が気付かねば、二人ともただではすまなかっただろう…」
「二人とも…ね…」

咄嗟に楓も庇ったが、改めて割れた鉢植えの位置を見れば、直撃するのは疾風一人だっただろう。

「全く…何かあったらどうするのだ。あんなところに吊しておくのが間違っているのではないか?」

疾風はベランダの鉢植えを睨んだ。それはかなり丈夫そうな紐で吊られていた。

「…行こう。厄介事は好きじゃないから」
「良いのか?」
「事故だろ?偶然だよ。二人とも怪我が無くて良かった」

憤慨する楓を宥めるように言うと、疾風は歩き出した。


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