loveforyou第1話-2
「私は“姫”などではありませんよ……?」
「いいえ。貴女様がそう思っていらっしゃらなくても、王家に嫁いだ以上は“姫”と言うご身分なのです。ご了承下さい」
そう言ってもう一度お辞儀をする。彼女が言っていることは間違いではない。
昨日の私ではないから……
「紗矢さん……」
「紗矢です」
「……紗矢。とても大きな庭なんですね……」
窓から見える手入れが行き渡った庭。季節の花が咲き、街の外とは違う。
『よく似合ってるよ』
私に花を私ながら微笑む渉。それが一本でも、名も無い花でも貴方がくれるなら嬉しい。
ここから渉が見えるだろうか?
渉の声も顔も……。
どんなに遠くでも貴方を見ていたい。
「姫──」
紗矢が私を呼ぶ声はノックによってかき消される。しかし、それに紗矢は戸惑うことはなく、部屋のドアを開けた。
「周二様!」
紗矢はドアを開けた瞬間、そう言った。
周二様………。
青い瞳で真っ直ぐに私を捕らえ、近付いてくる。
私の新しい結婚相手
「見るのは初めてか?」
「えっ………はい…」
一つ一つの動作に目を取られ、いつの間にか傍にいるのに気付かなかった。それだけ、この人には人を引きつける魅了がある。
「くっくく…。そう怖がるなよ」
優しく微笑んでも、その強い瞳に飲み込まれそうで怖い。私の髪に触れるその指が全ての神経を奪っていくようで。
「何かあったらすぐに言え」
「はい………」
一瞬だけでも触れた頬も私を崩れ去せていく。手の震えを止めるだけで私の気持ちは張り裂けそうだった。
「周二様……」
「“周二”だ。わかったか?」
そう言って部屋を出て行く。パタンっと言って閉まったドアの音を聞き、私の頬には暖かいものが伝っていた。
いっそうのことなら
私の記憶の全てを消してくれればいいのに………。
つづく