『欠片(かけら)……』-28
「あんなの恥ずかしくってあたしは嫌よ」
あたしの答えにがっくりとうなだれる亘。そして溜息を漏らす外野の人々。って、あんた達まで何よ?うちの会社ってこんなのばっかりなワケ?
その場にいるのがいたたまれなくて、あたしはしょぼくれる亘を残して歩き出した。数歩進んで振り返っても亘は同じ姿勢のままでいる。
「早く来なさい!置いてくわよ」
そんなたった一言で亘はみるみる笑顔になって駆け出して来る。あんたの前世って犬か何かなの?あたしの言葉に一喜一憂するけれど、常に真っ直ぐな愛情を向けてくれる。
寿也の台詞じゃないけど、あんたには敵わないわ。本当に……
あたしに追い付いた亘のネクタイを掴んで力任せに引き寄せる。そしてすぐ側に来た耳元にこっそり囁いた。
「どうしてもって言うなら二人だけの時にして」
その言葉に目を輝かせる亘。こんなコトを言っちゃうなんてあたしも重傷かな?
しょうがないよね。どうやらあたしも惚れちゃってるみたいだから……
柔らかな風が昨日までの世界をそっと変えていく……
そんな午後の陽射しの中であたしは静かに溜息をついて微笑んだ。
ねぇ、寿也……
彼があたしの探してた欠片かどうかは、まだわからないけど……あたし、この人と幸せになってみせるから……
それでいいんだよね?
だから、さよなら寿也……
END