『欠片(かけら)……』-27
しばらく口をモゴモゴと動かした後に、大きく息を吸って亘ははっきりとした声で
「次は……俺達の番にしましょう。必ず……」
そう言った。
「そうね……勢いでプロポーズってのが亘らしいけど」
「プ、プロポーズ!?」
ギョッとした顔で亘は慌ててあたしの方を見る。
「あら?違うの?」
赤い顔を更に真っ赤にさせて、しどろもどろになる亘に笑いが込み上げてあたしはクスクスと笑ってしまった。その様子に少し憮然とした表情で見つめると、亘は両腕でしっかりとあたしの両肩を掴む。
「勢いかもしれませんけど、俺は本気です。澪さん俺の……うぐっ!!」
後ろから延びた腕が喉元に巻き付いて、意を決した亘の告白は残念ながら途中で遮られた。
「あのなぁ、韮崎。今日の主役は俺達なんだぜ?主賓を無視して盛り上がってんじゃねぇよ」
そんな新郎の言葉に周りからも失笑があがる。
「お前の一途さはいいけど、時と場所と相手の都合を考えろよな?」
腕を外して咳込む亘を尻目にそう言ってのけると、新婦を抱き寄せてニッカリと笑った。
「せめて俺達がいなくなるまで我慢しろよ。まぁ、せっかくだから今のうちに見せ付けておくか」
横目でちらりとあたしを見ると、新郎は……寿也は新婦の顎に指を掛けて、目の前で熱々のキスシーンを披露する。そして 大胆にも花嫁をお姫様抱っこして車へと向かった。
寿也……あなたってそんなキャラだったっけ?
半ば、やけくそ気味にも見えるのはあたしの勘違いよね?
だけどあの笑顔は嘘じゃない。そう思えたし、そう信じることにするわ。だからお幸せに……
大好きだったよ寿也……
「いいなぁアレ……でも俺なら最初から最後までお姫様抱っこで歩いてみせる!上杉さん、俺は負けませんよ」
感慨に浸る間もなく妙な熱気とともに隣からそんな台詞が聞こえて来る。
!!!
振り向いたあたしが目にしたのはガッツポーズのように握りこぶしを固めて、目を爛々と輝かせてる亘の姿だった。
バ、バカ!変なコトに張り合わないでよ。寿也、あなたこうなるのがわかっててあんなコトしたのね?変な方向に亘を焚き付けないでよ、お願いだから。
「俺に任せて下さい。絶対あれより凄いですから。だから俺の奥さんになって下さい」
あたしの手を握り締めながら鼻息も荒く亘はそう言った。ちょっと待ってよ。張り合う基準はソコなの?
「負けないぐらいに幸せにしてみせます、必ず」
わかったわよ、もう!
どうしてあんたってば、お構いなしに自分の世界に浸れるのよ。まだ周りにたくさん人がいるのよ?どうしてもあたしを悶死させたいワケ?
ちらりと横目で見ると、事の成り行きを興味津々といった感じで見ている式の参列者達がいる。しかも大半が会社の関係者なんだから始末に終えない。