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『欠片(かけら)……』
【大人 恋愛小説】

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『欠片(かけら)……』-26

 そして滞りなく式は催された。プログラム通りに淡々と進む結婚式をあたしは席上からじっと眺めるだけ。

「澪さん…」

そんなあたしに隣の席から、躊躇いがちに亘がそっと声をかけてくる。

「なぁに?」
「……いえ、なんでもないです……」

言いかけた言葉を飲み込むように亘は言った。だけど止めた台詞のその先なんて聞かなくたってわかるから、ゆっくりと視線を亘に向けるとあたしは彼の手をそっと握った。

「ありがとう、亘……あたしは大丈夫よ。今はあなただけをちゃんと見てるから……」

少し遅れてあたしの手が握り返された。それはいつも通りの台詞ではない亘の返事。ただ、いつもより握り返す力が僅かに強かったのはあたしの気のせい?

 そして結婚式もフィナーレを迎え、あたし達は教会の外に出た。階段に敷かれた赤い絨毯の両脇に並ぶ参列者の中、扉が厳かに開いて新郎新婦がゆっくりと歩み出る。

降り注ぐライスシャワーの中、彼女をエスコートしながら寿也は階段を降りて来る。途中で偶然にあたしは目が合ってしまい、ぎこちなくも微笑んだ。すると寿也は彼女に何か耳打ちをする素振りを見せる。彼女も視界の中にあたしを捉えると寿也に頷き返した。

エスコートする新郎の手を離れ、新婦だけが歩を進める。投げるはずのブーケをしっかりと胸に抱えたまま。

待って、まさか……

うろたえながらあたしが寿也を見ると、視線の先には軽く両手を広げてとぼけたように微笑む彼がいる。そして数秒後、あたしの目の前にはブーケを抱えた新婦が立っていた。

「次は先輩達の番ですよ。受け取って下さい」
「由稀ちゃん……」

前代未聞の手渡されるブーケ。さ迷う視線の先で寿也はあたしにウインクを投げて寄越した。

そう……これがあなたの答えなのね?

差し出される花束をあたしは両手でしっかりと受け取る。するとどこからか起こった拍手が次第に広がり次の主役達への賛辞の声までが辺りに響いた。

「韮崎、任せたわよ」

そう言って微笑んだまま彼女は軽く亘を睨み付けるとドレスの裾を翻(ひるがえ)しながら新郎の元へ帰って行く。

呆然と去って行く後ろ姿を見つめていると肩に手が廻されて同時にグイッと体を引き寄せられた。驚いて隣を見上げると正面を見据えたまま、顔を真っ赤にした亘がいる。

「俺、頑張りますから。だから……次は……」

その先はモゴモゴと口ごもってよく聞こえない。バカね亘、その先が肝心なんじゃないの?

見るからに必死な表情の亘。助け舟を出してあげたいけど、ここはあなたの決め所でしょう?ちゃんと待っててあげるから……


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