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夢の雫
【ファンタジー 恋愛小説】

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夢の雫-5

そんな時、神柳に一瞬の隙ができた。針に糸を通すような、ほんの僅かな隙が。
その隙を重田は見逃さなかった。彼は地面を蹴り、神柳の左腹に渾身の力で一撃を加えた。
それを神柳は両手で難なく止めた、はずだった。
しかし、彼の両手は何に触れることもなかった。
重田が鉄パイプを切り返し、今度は神柳の右腹に一撃を加えたのだ。

コンッ

金属と金属のぶつかるような鈍い音が辺りに響いた。
「!」
それは明らかに重田の予想していた音とは違った。
人間じゃない。そう思わずにはいられなかった。
「お見事です」
神柳は瞬時に、重田の体に手を向けるが、重田はすぐさま間合いをとった。
しかし間合いをとったとはいえ、神柳の攻撃のすべてを防げるわけではなく、重田は軽く吹き飛び、なんとか着地をした。
「何者だ、あんた」
「浄様、人が」
神柳が口を開く前に、瑞穂がそれを遮った。
たしかに遠くの方に二つばかり人影が見える。
「ここまで、ですか」
すうっと刺すような空気が無くなる。
そして神柳は住宅の屋根へと跳躍した。
「おい!」
「あなたも有らぬ疑いをかけられる前にここから逃げた方が良いですよ」
「待て!おい」
「では」
そう言って神柳と瑞穂は、夜の闇に消えていった。
一方重田はそれと逆の方向に走り出していた。
疑われたっていい、今自分の見たこと、神柳のことをすべて警察に話すつもりだ。
そして救急車を呼び、神山を助けるのだ。無駄かもしれないが、そうせずにはいられなかった。


今日汚れた革靴を磨く。それが神柳の楽しみだった。
いつもほとんど汚れていない革靴を磨くのだが、今日の物は磨きがいがあった。
とは言っても、新品にほんの少し血がついた程度の汚れであったが。
「浄様、大丈夫ですか?」
瑞穂が心配そうに神柳に声をかけた。
風呂に入ったため、頬がほんのり赤く、髪が少し濡れている。
これだけ見れば、13歳とはいえなかなか色っぽいのだが、あまりに子供っぽい黄色のパジャマがそれを台無しにしていた。
「わたしは大丈夫です。瑞穂は大丈夫ですか?」
「み、瑞穂は…大丈夫ですよ」
瑞穂はパッと右手を隠す。それはさっき重田に握られていた方の手だった。
内出血でもおこしているのだろう、握られていた場所が変色していた。
「内出血ですか?」
「してませんよ」
瑞穂は右手を隠したまま、左手を左右に振り否定をする。
「右手を見せてもらえますか?」
瑞穂の肩がビクッと上がる。
瑞穂は渋々、右手を神柳に差し出した。
「約束覚えてますか?」
神柳はギロリと瑞穂を睨む。
瑞穂はその目をなるべく見ないように、瞳を天井に向けた。
「な、何の事でしょう?」
「怪我をしたらもう来ない、と言いましたよね?」
「そんなこと言いました?」
相変わらず瞳を天井に向けたまま、瑞穂は答えた。
「言いました。次から来ないでください」
手際良く差し出された瑞穂の手に神柳は包帯を巻いていく。
それはとても手慣れた動作だった。


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