【煙と声と火】-2
『バキッ』
なにかを踏ん付けた。目をやると……。
『……これは……。』
僕の目線の先には、笑顔の僕と…優しい顔をしたお母さんと……とっても楽しそうな顔のお父さん……僕の大事な写真だった。僕はそれを拾い上げ、大切に…大切に抱えながらベランダへ向かった。少しだけ力をくれたような気がする。また会うためにも……生きたい。
――人――いる―
――火が――――
少しだけ外の声が聞こえた。ベランダまであと少し……煙はさらに闇を深めていた。……生きたい…。…会いたい…。
『大丈夫か!?今すぐ助ける!!』
ベランダの向こうから消防士の人が近づいてくる。きっと助けてくれる。………僕は後ろを振り返ってみた。闇はどこまでも広がってるような気がした。…どこまでも…。
『よし、もう安心だ!』
消防士の人が僕の片手を掴む。ゆっくりと…体を持ち上げられ…。
『ドォオォンッ!!!』
背後からの突然の爆音と爆風に僕は吹き飛びそうになった。頭が真っ白になる。けれど…消防士の人の目は強くて…まっすぐだった。僕は体を預け…どうにか僕を消防士の人の方に移動することができ、あの地獄からゆっくりと離れていった………。
夜、病院の中で僕は眠れず震えていた。……目を閉じると闇が広がって…。あの煙で造られた闇を思い出してしまう……。
――大丈夫か!?今すぐ助ける!!――
あの人の声は強かった。……大きいとかそんなんじゃなくて……温かい……火よりも熱い……そんな感じだった。
『………。』
僕は大事な宝物を手にとった。また見つめてみる…。…不思議と……心のあの闇が、あの火が……もっと温かいものに変わっていった気がした…。