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【煙と声と火】
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【煙と声と火】-1

『ゴォォッ!!』
周りはもう地獄のようだった。赤い火はテーブルを燃やし、椅子を燃やし、全てを燃やそうとしていた。
その地獄の中に僕はいた。なにがあったんだろう?……そういえばさっき…なにか爆発するような……気付いたら隣の方から煙が……。
ここは十階建てのマンションだ。お父さんとお母さんが出掛けている時に…。……煙に気付き外に出ようとした時はもう火が僕に迫っていた。急いで扉を閉めて僕は考えていた……。

『……逃げれない…。』

ドアの向こうは火。

ベランダから見える世界は黒い煙で閉ざされていた。

火が、火がベランダからも見えかくれしていた。僕は自然に中央のリビングに逃げた。段々と熱が上がってきた。熱い、怖い、火が、煙が。


『バァンッ!!』

頭を抱えていた僕は音のする方へ目をやると、テレビが壊れて爆発したようだった。日常だった物を火は僕の前からどんどん奪っていた。
テーブル、椅子、カーテン、僕の大好きなおもちゃ、僕のランドセル、僕の大事な家族で撮った写真。


『ゴホッ……ゴホッ…。』
いつの間にか煙は僕の中に入ってきてたようだ。苦くて鼻にも肺にも鋭い痛みがくる。朦朧とする中、見上げたらいつも見ている天井ではなく、黒い深い闇の色をしたものに変わっていた。

『……助けて…。』

僕がそう言った瞬間に本棚が倒れた。

『…………助けて…!』

火が獣のようにあらゆる物を食い尽くそうとしていた。

『誰かぁっ!!助けて!!』

僕の声より大きな声で獣が唸りをあげていた。


もう、僕は狂いそうだった。目が痛い、鼻が痛い、胸がいたい、熱い、…怖い。涙がこぼれても床を濡らしてはくれない。視界は暗く、ただ獣が僕の前に嘲笑うかのように見つめていた。お父さん、お母さん………。
僕が大事にしていた…家族みんなで撮った写真は火にのまれてしまった…。なんで火はこんなに大事な物をすぐに奪えてしまうの?なんて人間はこんなに弱いの??




ベランダの煙と火が一瞬消えたように思えた。その時、煙に閉ざされていた世界が見えた。その中に人が見えた。人?…そうか消防士の人か……。生きたい。

『助……けて…。』

その人と目があった。なぜだかその目は強くて…まっすぐで……。

必死に僕はベランダへ向かう。火は外からの放水で少し弱まったがまだ玄関の方からの火は強いままだった。
一歩、一歩ずつ歩く。とても熱くて怖くて…いろんなものを奪ったこの火から逃れたくて……。


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