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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第11話・二人でお留守番》-6

◆◇◆◇◆◇◆◇

数十分後。

「出来たぞ!食え!」

楓が疾風の前に炒飯を置いた。見た目は普通。千夜子の物と比較すると円が多少歪だが、それ以外に変わったところは無い。

「いただきます」

疾風がそれに口をつける。モグモグと口が動く。飲み込むともう一口。

「どうなのだ?」

堪えきれずに楓が口を開いた。

「不味くは無いんだけど…若干、薄味かな…」
「そ、そんな…」

疾風の苦笑いに楓が思わずよろめく。

「どれ…」

千夜子が横からレンゲを伸ばし、楓作の炒飯を食べる。

「…てか、薄味の次元を超えて味無いじゃん」

ガーンと楓の脳内で擬音が響く。

「でもまあ、不味くは無いんだから…」

そう言って疾風はさらに炒飯に手を伸ばす。

「もう良い…無理して食べなくとも…私が…食べるから」

それを楓が紙一重で持ち去る。

「………」

楓はキッチンの奥でうずくまり、自分で作った炒飯を食べた。何の味もしなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「じゃあ、アタシは帰るから」

千夜子が玄関で言う。

「あ、はい。ごちそうさまでした」
「あ、あのさ…もし良かったら…また作ってやるからさ…その時は…」
「ありがとうございます先輩。またよろしくお願いしますね」

疾風がニコッと笑うのを見て、千夜子は嬉しそうに紅くなった顔を伏せた。

「じ、じゃあな…また」

千夜子はそう言うと忍足家を後にした。そして、扉を閉めて道路に出ると…

「ヨッッッッシャアアアアアアア♪」

近所迷惑も省みず、大声で叫んだのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「どうしたんだ…先輩…?」

千夜子の歓喜の声を疾風は不審に思いつつ、キッチンに戻った。

「………」

楓は相変わらず暗い顔をしたまま洗い物をしている。

「あの…楓…」

呼び掛けに楓は無言で洗った皿を拭く。


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