刃に心《第11話・二人でお留守番》-6
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数十分後。
「出来たぞ!食え!」
楓が疾風の前に炒飯を置いた。見た目は普通。千夜子の物と比較すると円が多少歪だが、それ以外に変わったところは無い。
「いただきます」
疾風がそれに口をつける。モグモグと口が動く。飲み込むともう一口。
「どうなのだ?」
堪えきれずに楓が口を開いた。
「不味くは無いんだけど…若干、薄味かな…」
「そ、そんな…」
疾風の苦笑いに楓が思わずよろめく。
「どれ…」
千夜子が横からレンゲを伸ばし、楓作の炒飯を食べる。
「…てか、薄味の次元を超えて味無いじゃん」
ガーンと楓の脳内で擬音が響く。
「でもまあ、不味くは無いんだから…」
そう言って疾風はさらに炒飯に手を伸ばす。
「もう良い…無理して食べなくとも…私が…食べるから」
それを楓が紙一重で持ち去る。
「………」
楓はキッチンの奥でうずくまり、自分で作った炒飯を食べた。何の味もしなかった。
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「じゃあ、アタシは帰るから」
千夜子が玄関で言う。
「あ、はい。ごちそうさまでした」
「あ、あのさ…もし良かったら…また作ってやるからさ…その時は…」
「ありがとうございます先輩。またよろしくお願いしますね」
疾風がニコッと笑うのを見て、千夜子は嬉しそうに紅くなった顔を伏せた。
「じ、じゃあな…また」
千夜子はそう言うと忍足家を後にした。そして、扉を閉めて道路に出ると…
「ヨッッッッシャアアアアアアア♪」
近所迷惑も省みず、大声で叫んだのだった。
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「どうしたんだ…先輩…?」
千夜子の歓喜の声を疾風は不審に思いつつ、キッチンに戻った。
「………」
楓は相変わらず暗い顔をしたまま洗い物をしている。
「あの…楓…」
呼び掛けに楓は無言で洗った皿を拭く。