刃に心《第11話・二人でお留守番》-4
「………具は?」
「………これです」
疾風はネギに視線を向けた。
「…………だけ?」
「…………だけだそうです」
「……………それは具じゃなくて薬味って言うんじゃねぇの?」
「……………ですよね」
二人の視線が楓に集まる。
「私の家ではうどんにはネギしか入れておらなかったのだッ!!」
「大量のうどんの説明は?」
「父上は一人で3玉食べておったッ!!だから、男は3玉食べるものだと思っておったのだ!!文句があるのか!?」
多少、顔を赤くしながら楓が吠える。
「…自分の物差しで他人を測らない方がいいぜ」
千夜子の言葉に疾風が小さく首肯。
「うっ…」
楓がたじろぐ。
「な、なぁ…疾風。も、も、もし良かったらさ…その…あのさ…昼飯さ…一緒に食べない?」
その隙に千夜子が先制攻撃。どもりながらも何とか伝えたいことは言えた。
「アタシさ、いつも一人で飯食ってるから、たまには他の奴と食べたいな〜って思ってさ…」
千夜子はチラッと横目で楓を見た。すごいジト目で睨んでいた。
「その代わり、昼飯はアタシが作ってやるからさ。ダメ…か?」
「えっと俺はいいんですけど…楓はどう?」
「わ、私は…」
本音を言うならば、疾風との一時を邪魔されたくないのだが、断る為の決定的な台詞も見つからない。
「お願い!」
千夜子は珍しく下手に出て、顔の前で手を合わせた。
楓はしばらく悩んだ後…
「まあ…そう言うのであれば…」
渋々、不承不承といった様子で答えた。
「だそうです」
「ありがとな!美味いの期待していいぜ!」
喜ぶ千夜子を見て、楓は胸の奥で不安が蠢くのを感じた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ただいま」
「只今帰りました」
「お、お邪魔します…」
それから十数分後、スーパーの袋を提げた3人が忍足家へと入る。
(疾風の家…初めて入った…)
キョロキョロと緊張気味に千夜子の目が動く。
そわそわとして落ち着かない。
「千夜子殿…」
疾風に聞こえないように楓が声を潜めながら言う。
「昼食までですから」
つまり、昼食を食べ終わったらすぐに出ていけということ。