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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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高崎龍之介の悩み 〜初恋〜-11

高崎家に入った途端、美弥は背後から抱き締められた。
「り、龍之介?」
驚く美弥に、龍之介は囁く。
「ごめん、しばらくこうしてて」
「……うん」
しばらくの間おとなしく、美弥は龍之介に抱き締められていた。
自分を抱き締める龍之介の指が微かに震えている事に、美弥は気付く。
「……龍之介」
震える指を、美弥は握り締めた。
「だいじょぶ?」
「…………あんまり、平気じゃないかも」
「龍之介……」
美弥は腕を振りほどき、振り返って龍之介の頭を抱き寄せる。
「……つらかったね」
美弥は、龍之介が恵美に犯された事を知らなかった。
けれども発したその一言は、龍之介の心にさざ波を起こす。
「っは……」
力無い、虚ろな笑い声。
胸前が、じわじわと冷たくなって来た。
「龍之介……」
――泣いてるの?
問う代わりに美弥は、龍之介をきつく抱き締める。
「っ……!」
龍之介の肩が細かく震え、鳴咽を漏らし始めた。
泣き止むまで……美弥は龍之介を抱き締め続ける。
――しばらくして。
「みっともないとこ……見せちゃったな」
顔を上げ、赤く泣き腫らした目を拭った龍之介は、無理矢理笑みを浮かべた。
「みっともなくない」
美弥は、龍之介の頭を優しく撫でる。
「無理する必要なんか……ないよ」
あんなに強いのに、こんなに脆い面がある。
支えてあげたいと、美弥は心底思った。
「いつでも、受け止めるから。支えになるから」
「っ……!」
龍之介の瞳から、再び大粒の涙が溢れる。
「龍之介」
美弥は顔を寄せ、涙を啜った。
「美弥……」
堪らなくなって、龍之介は美弥を抱き締める。
「ありがとう……」


しばらくして――。
冬の新作とクリスマスケーキの試食のために、美弥と龍之介は『ラ・フォンテーヌ』に呼び出された。
「ん〜ま〜〜っ!このブッシュ・ド・ノエル、材料何ですか?」
クリスマスケーキを一回り試食した美弥は、最後に食べたブッシュ・ド・ノエルをえらく気に入ったらしい。
「ああ、それ?生クリームじゃなくて、バタークリーム使ってるんだ」
高崎竜彦は、そう教えてくれる。
「バタークリーム?」
初耳の材料に、美弥は首をかしげた。
「そう。醗酵バターと何やかんやを混ぜたクリーム。醗酵バターは日本ではあんまり馴染みがないけど、日常的に使う塩味の非醗酵バターより爽やかな風味で、美味しいんだよ」
「へ〜……」
「何しろ、グルメなおフランスの方々がオリーブオイルと共に日常的に使う油脂だからね」
「ってかオイ、皿を片付けさせてくれよ」
会話の弾む美弥と竜彦の横から、ウェイターの宮子が文句を言う。
「龍之介君、手伝え」
「は?」
「いーから手伝え」
再度促されると、龍之介は渋々立ち上がって宮子を手伝い始めた。
厨房へ続く扉の奥に、二人の姿が消えて行く。
「……行ったな」
戻って来ない事を確かめて、竜彦は呟いた。
「?」
不思議そうな顔をする美弥に対し……竜彦は、不意に頭を下げる。


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