Ⅰ～港町に咲くインカルビレア～-2
私は目を開け、日光を浴びてキラキラと輝く波間を再び眺める。
説明が遅くなってしまったけど、私が立っているここはコンタットという名の港町の波止場だ。
「コンタット」っていうのは「出会い」という意味で、海を介してこの港町で異国の人々や文化が「出会う」という所から名付けられたそうだ。
私はこの話を漁師のおじさんから聞いて、私が住む町はここしかないって思った。
石畳の道やレンガ造りの家々はとっても綺麗だし、それに素敵じゃない？
いろんな人や文化に出会える町って。
私にとってすごくいい出会いが待っていそう！
でもまあ、とりあえずは…
「住む所と働く所を探さなくちゃ」
私はキラキラ輝く水面に背を向けて歩き出す。
「それじゃ行きますか。職探しアーンド住居探しに」
水面と同じくらい輝く希望を胸に抱いて……
しかし現実はミルクチョコレートみたいに甘くはなく、むしろカカオ99％のチョコぐらい苦くて、私は自分が世間知らずの小娘であるということを嫌という程思い知らされた。
職を求めて面接を受ければ、行く先々で住所のない者を雇うわけにはいかないと言われ、住居を求めて不動産屋に行けば、行く先々で職のない者に貸せる物件はないと言われ、じゃあそれならばと住み込みで働ける所を探せば、行く先々で私のこの身なりを見て断られ……
確かに服は泥だらけ、髪はボサボサの人間を雇いたくはないかもしれないけど、しょうがないじゃない！
旅の間中ずっとこの格好だったんだから！
それに替えたくてもお金がないんだから！
お金があったら身なりをちゃんと整えたいわよ！
私だって16歳になったばかりの乙女(？)なんだから！
だからこうしてお金を稼ぐために職を探してるのに…
なんだか泣きたくなってきた…
もしかしてこれは私から乙女(？)のステータスを奪う無限連鎖なの！？
それとものたれ死にへの前奏曲(プレリュード)！？
私が思考も視線もマイナスのベクトルにして歩いていると…
ドン……
何か、いや、誰かにぶつかってしまった。
「きゃっ！す、すみません！私、ぼーっとしてて！」
平謝りしながら視線を上げるとそこには大きなダンボール箱とおばあちゃんが転がっていた。
まさかこれは…
?転倒による後頭部強打
?急性心筋梗塞
?石畳の上で日向ぼっこ
絶対に?だ～！
そして私のせいだ～！
私は慌てておばあちゃんに駆け寄る。
「おばあちゃん、大丈夫！？しっかりして！お願いだから死なないで！嗚呼、私のせいで見ず知らずのおばあちゃんが後頭部を強打して…！あ、これって事故？それとも殺人！？もしかして私ってたった16歳にして凶悪な殺人犯？っていうことは白と黒のストライプの囚人服を着せられ、身長を測るための目盛りが書かれた壁の前で写真を撮られて、牢獄に叩き込まれるの！？牢獄の中では看守に拷問・強姦され、挙げ句の果てには民衆の前で公開首切り処刑！？神様、私に愛と慈悲、そして復活呪文を、ザオ〇クかアレ〇ズかレイズ〇ッドをお与えください！」
「少し落ち着いてください。私は死んでいませんし、頭も打っていませんから」
そう言いながらおばあちゃんはゆっくりと身を起こす。