子羊の悩ましい日々 〜歓迎会〜-3
「その通りだ。だが、それ以外に彼女たちには大きな共通点が一つある」
その言葉に改めてモンスターの女性たちを見回すが、モンスターについてほとんど知識のないロイには外見的特長以上のことは分からない。
「共通点は、子供をなすのに人間の男の精を必要とすることだ」
ロイはへえ、なるほどと一瞬呟き、次の瞬間に硬直する。今のサラの言葉に秘められた意味はあまりに深いものがあるのではないか。
「ああ、安心しろ。子作りしろというわけではない」
その言葉にロイは安堵の表情を浮かべた。先ほどのサラの言葉から容易に想像できる一つの推測が外れてくれたからだ。
しかし――
「お前の役割は、彼女たちの性の練習台になることだ」
その言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。理解したくない、との思いが無意識に働いたらしい。しかし、サラのその言葉はひどく単純なものであり、誤解しようのないものであった。
「そ、それは……まさか……冗談、ですよね?」
引きつった表情でロイは言うが、もちろん冗談であろうはずもない。
「お前に相手をしてもらいたいモンスターは、まだ人間との性体験がない者たちだ。昨今人間たちが慎重になったことにより、かつてのように親が娘に性交方法や人間を誘惑する方法を実地で学ぶ機会が減ってしまっている。その結果、彼女たちの生殖活動が急速に低下している。これは由々しき事態である。生殖を司る神でもあられるラーナ神は、この事態を非常に憂えておられる」
「ラーナ様が……」
その言葉はラーナ神に仕えるロイにとっては殺し文句である。
「そこで我々が決断したことは、ラーナ神に仕える男の司祭から『子羊』を選ぶということだ。そしてここアルティア地区の『子羊』として選ばれたのがお前だ」
「『子羊』?」
その言葉から想像されるイメージにロイは顔をやや青くした。
「ラーナ神の教えを遵守する敬虔な司祭の中から、魂の器が大きい選ばれた者のみがなり得る。選ばれたことを誇りに思うがいい。役目は、先にも言ったが、彼女たちの性の練習台になること。また、人間の男を誘惑する手段の練習台にもなってもらいたい。ああ、安心しろ。『子羊』に選ばれた者にはラーナ神の祝福が授けられる。『子羊』としての役目を務めているときは精が尽きることはないし、怪我などを負ってもすぐに治る。また、『子羊』にはモンスターにしか見えない目印ができ、日常でモンスターに襲われるような事態があっても、モンスターは『子羊』を決して襲わない」
それらの言葉に、ロイは眩暈で倒れそうになる。
「確かに『子羊』は厳しい。様々なモンスターの性の練習台になるのだ。ましてや、相手は初めて。誤まってお前を傷つけることもあるかもしれない。しかし、ラーナ神の司祭として大切な仕事であることは分かってほしい」
「そ、それは……」
「今日は、そんな『子羊』へねぎらいの意味を込めた歓迎会だ。ここにいるモンスターたちは、全て性行動については熟練したものたちばかり。時に快楽を貪ることをラーナ神は否定しない」
そう言ってサラはロイの額に手をかざし、何か呪文のようなものを呟く。
「な、何ですか?」
次第にロイは身体が熱くなってきていることに気づく。特に、額が熱い。
「お前の額に『子羊』たる印を刻んだ。モンスターとラーナ神に仕える者だけ見ることができる。ロイ司祭、お前の『子羊』としての仕事に期待する」
サラは後ろに下がると、モンスターたちをぐるりと見回した。
「さあ、種族の未来を守る『子羊』を歓迎するんだ」
その一言で場の雰囲気が変わった。先ほどまでは、聖霊の存在もあり荘厳とさえ感じたが、今はむせ返るような気を感じる。
ロイは、この場にいる全ての者の視線が自分に注がれていることにたまわない不安感を感じる。しかも、その視線は熱く、絡み取られるような粘っこさがある。思わず後すざると、いつの間にかロイの背後に回りこんでいたソフィアが優しくロイを抱きとめる。
「し、司祭長!?」
「ふふ、ロイ司祭……いえ、ロイくん」
ソフィアの笑みは相変わらず優しかったが、その瞳はどこか潤んでいるようにも見える。首にかかる息も熱い。
「『子羊』は男の司祭にとって非常に名誉な役職なのよ。なりたいと希望する人は多いけれども、器に足らないことがほとんどなの」
そう言いながら、ソフィアは抱きしめる力を強める。大きな胸が背中でつぶれる感触が感じられてロイは顔を赤らめる。
「『子羊』くんはウブなんだ」
突然聞いたことのない声が近くでした。
ロイが視線を向けると、そこには透き通るような白い肌をした美人がいた。どう見ても普通の人間にしか見えない。