痛みキャンディ7-2
「おまえの味方だからな。おれは。何かあったらすぐ言ってこい!」
おれはそのぬくもりに吸い込まれそうになるのを恐れて、その手を勢いよく振り払った。
「うるせぇ!てめぇもどうせあいつら同じ大人なんだろ!」
おれは走って逃げた。
本当はそんな事が言いたかったんじゃない。
「ありがとう」って言いたかったんだ。
帰り道におれは悲しくて泣きたかった。
涙は一滴も出てこなかった。
おれには痛みの感情がなかったから。
謝りたかった。
だけど怖くておれは避け続けた。
結局まともな話はそれから一切せずにその人は転勤になってしまったから。
その二ヵ月後に先生から手紙が届いた。
上原昂太様
元気してるか?
おまえとは結局まともに話ができず残念に思っている。
おまえに伝えたかったことがあったんだ。
それはな、おまえは
今も生きている。
素晴らしいことなんだよ。おまえが生まれてきて成長してくれて元気に毎日生きている。
だからおまえは自信を持ってこれからも生きていけばいい。
誰に何を言われても気にするな。
おまえを誰も否定はできないから。
おまえにあえて良かった。
おれはおまえに何もしてやれなかったけど、おまえの痛みも傷も苛立ちもきっといつかおまえ自身が癒せるはずだと信じている。
だからどうか命を大切にしていってくれ。
おまえの存在が消えそうな時は思い出してくれ。
おまえは悪くない。
前だけ見つめてしっかり歩けな。
おまえのこれからはきっと光溢れている。
おれはそう信じている。
何かあったらいつでも連絡してくれ!
元気でな。
武田信明
結局返事は返せなかった。
おれは失礼なことをしてしまったから。
先生はまだプラットホームに立っている。
窓を開けて叫んでみたら声は届くはずだ。
おれは窓を開けようとした。
ちょうど向かいから先生のいるホームに電車が止まってしまった。
先生の姿はもう見えない。おれは叫ぶのを諦めた。
その代わりに
「先生ごめんなさい。ありがとう。」って呟いてみた。
届かない声で。
伝えられなかったことに歯痒さを感じながら電車は駅を出た。
おれは下を向きながら握った拳を見つめていた。
拳に雫が零れた。
おれの後悔の、そして痛みの結晶が零れ落ちたんだろう。
電車は揺れる。
おれと
後悔を乗せたままで。
おれは向かう。
もう後悔しないためにも。