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痛みキャンディ
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痛みキャンディ8-1

胎内の鼓動をおれらは忘れてしまう。 
きっと初めて聞いた音なのに。 
愛の塊のような旋律なのに。 
成長するうちに、幾多の雑音に耳を奪われて忘れてしまうんだろう。 

あの景色も……
おれは忘れてしまうのかな? 
暖かい陽だまりのようなあの… 


各駅停車のこの鈍行はゆっくりゆっくりと進む。 
まるで急かすおれの気持ちを静めるように。 
左右に揺れながら、まるで細長い揺りかごのように。瞼が次第に重くなる。
いつしかおれはその心地よさから夢見に堕ちてしまった。 

沈黙の世界がそこには広がっていた。 
暗い夕暮れ。 
一人待つ子供。 
待てども迎えは来ない。 
次第に表情を曇られ、大粒の涙を落として……

そこに一台の軽自動車が停まった。 
待ちに待った… 

「かぁちゃん…」


皮肉にもそこで夢見から現実に引き戻されてしまった。 
その先が見たかったのに。いつもその先は見られない夢を悔やんだ。 
あと二駅で目的地に着く。 
まだ寝ぼけたおれの脳裏には裏切りと不安と愛を乞う気持ちでいっぱいになった。 
電車はゆっくりと速度を緩めながら停車した。 

この土地であの人が待つのか… 

確認したいことが幾つもあった。 
会ったらなんて言ってやろうか、怒鳴り散らしてやろうか、そんなことを考えながら降りる準備をした。 
夕暮れの駅はそんなおれの心を揺さ振って一層不安にさせる。 
まるで世界の終わりを感じさせるかのように。 

駅の待ち合室であの人はおれを待っていた。 
そこにいたのはあの在りし日の母の面影からはかけ離れたやつれた姿だった。 
もう目にはいっぱいの涙を溜めていた。

見た瞬間、衝撃が走った。心に広がるのは混沌まみれの童心。 
なんでおれを捨てたんだ。孤独な日々がフラッシュバックした。 
苦い血の味。 
痛みそのものだった。 

痛み。 

それをおれは引きずってきたんだ。 

痛み。 

忘れてなんかいなかった。 
胸に焼き付いた癒えないモノ。 

許せるもんか…… 

どうして許せるんだ… 

おれは目を合わせられなかった。 

母はその場に泣き崩れた。 
あの保育園。 

あの夕方の孤独。 

胸が張り裂けそうになった。 

胸が痛い。 


でも思い出したのはそれだけじゃない。 


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