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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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パシリと文学部と冷静男-9

「――ってな感じかな、いっつも」
「はぁ、あまり反りが合わないんですかね」
「んー、パッと見だとそう思うかも。でもたぶん喧嘩するほど仲がいいんだよ、二人ともね」
「……なるほど、そういうものですか。しかしあれですね、こうやって真剣な顔で見つめ合ってると結構お似合いの――」
 いつの間にか声が大きくなっていたらしく、栗花落と遠矢は同時に崎守の方に顔を向けた。そして同時に口を開き、
「それはない!」
「それはありません!」
「う、す、すみません」
 言ってから顔を見合わせて、またにらみ合う。つばさはそんな二人の様子に笑いを噛み殺しながら崎守にささやいた。
「ね? 解ったでしょ」
「え、ええ」
「遠矢さんもいい人だし、いっちーもちょっと冷たく見えるけど本当は優しいから、すぐに崎守君も馴染めるよっ」
 そして栗花落と遠矢のにらみ合いがまだ終わりそうもないのを確認し、
「ねぇいっちー、そんなことより行くなら早くしようよー」
「……そんなことより、ってお前」
「だって本当に嫌だったらもっと怒るじゃん。ほとんど喋らなくなるし」
 栗花落が、うっ、とうなって言葉に詰まる。つばさが言うようになる自覚はあるらしい。
「それに私はいっちーのそういうトコ、面白くていいと思うけどなっ」
「……」
「それでいいじゃん。だからもう行こ?」
 途端に栗花落は黙りつつ大股で歩きだし、遠矢は楽しそうにそれを眺めながら小走りで隣に並んで、何か話しかける。
 つばさと崎守はその後ろを付いていきながら、
「……手慣れてますね」
「まあねー。けっこう一緒にいるから。でもいっちー単純だから、慣れてくれば崎守君もできるようになるかもよ?」
「そうですね。……でも自分、いつも変なことをして誰かを怒らせてしまうんですよね。人付き合いが下手なんでしょうか」
「ふーん、でも、だったらきっと大丈夫かな?」
 崎守は眉を寄せて隣を行くつばさを見た。今の話を聞いていなかったのだろうか。
「いっちーだって前はよく似たようなこと言ってたけど、今はあんなに馴染んだもん。いっちーなんかでもできたんだから、崎守君にもできるよ、きっと」
「さらりと刺のある言葉が聞こえたような……。そういうものですか?」
「そうなの。だって、そういうの気にするのって、他の人のことも考えられるからでしょ? 怒らせちゃうのは空気読むのがかなり下手なだけで」
「……また」
「でも文学部のみんなは崎守君も頑張ってるの解ってるはずだし、ゆっくりやって行けば大丈夫だよ」
 ね? と無邪気な笑みを見せるつばさ。
「……だと、いいんですけど」
「少なくとも私はそう思うよ。崎守君が頑張ってるなら、私といっちーは絶対に応援してあげるから」
「……あの、栗花落さんの意見聞かないで勝手に決めていいんですか?」
「いいのいいの。ひねくれてるけど、最後はオッケーって言うもん。てか言わせてみせるからねっ」
 うわ彼も大変だなぁと思いつつ、崎守は軽く顔を伏せた。
 戸惑いを感じるが、しかし有り難い話だ。
「……おい、お前らさっさと来いよ」
 栗花落の声に顔を上げれば、いつの間にか栗花落たちは少し先で立ち止まり、崎守たちを待っていた。
「そっちが勝手に先に行ったくせにー。わがままだなぁ」
 つばさは文句を言いながら歩きだした。そしてふと崎守の方を向き、
「それじゃ、これからもよろしくね?」
「……はいっ」
 小さいが、確かな気持ちで崎守は返事をした。


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