冬のある日の出来事-2
テトリス。
落ちてくるブロックをうまく組み合わせて消していくあの際限のないゲーム、定期テスト前についやってしまったりする、あれだ。それは本当に小さなもので、緑色のプラスチックの本体にいくつか黄色いゴムのボタンがついており、キーホルダーのようにチェーンに留められていた。誰かが忘れていったものだろうが、DSの時代になんて時代遅れなものだろう。なにを思うでもなく、それを手に取る。テトリスはおれもよく小学生の頃にやったものだ。いやなことを一時でも忘れるためにいろいろとゲームをやったが、なにひとつ上達したものはなかった。テトリスもそんなおれの存在の価値を下げるのに一役かったゲームのひとつだ。
時間までしばらくあるので少しやってみようと思い、電源をいれてみると、何の前置きもなくブロックが落ちはじめた。
人生のしめくくりがよりによってテトリスとは…
おれは自嘲した。そしてまた、このくだらない人生の最後を飾るにはふさわしいのかもしれないな、と思った。
それほど考えもせず適当に並べていったので、ブロックは次々と積み上がってゆき、すでに半分近くが埋まってしまっていた。
テトリスもろくにできない人生だったなぁ…
そう思った瞬間、適当に落としたブロックが弾けて消え、そしてそれを筆頭に次々とそのまわりへと伝染していくように弾けて、一気に画面が殺風景なものになった。そのような連鎖を自分が繰り広げたのは生まれて初めてだったので、おれはつい画面に食い入ってしまった。おれは少し調子に乗り、さっきよりも真剣にブロックを落としはじめた。すると、どうだろう。おもしろいように次々消えて行くではないか。なぜか今のおれにはブロックの流れが手に取るようにわかるのだ。これをこうして、これはここに…よし!4連続の連鎖だ!すると気持ち良くブロックが一気に弾ける。こんな具合で次々と100人斬りをしている剣士のような気分でブロックを消していく。自分がテトリスの神ではないかと思えた。
その時、やけに強い風が吹いた。
肌を突き刺すような冷たいその風に慌てて首をすぼめてから、それが電車の通過によるものだと気付いた。
時計をみる。18時04分。
しまった。乗りそこね…いや、飛び込み損ねた。
おれが走り去っていく電車を呆然と見つめている間にブロックは積み重なり天井に達してしまっていた。
なんだかもうどうでもいい気がした。死ぬのはまた明日考えよう、そう思い、テトリスをポケットにしまって改札に向かう。
また今日も生き延びてしまった。明日も酸素をすって二酸化炭素を吐いて、洗剤を流しから垂れ流して、地球をよごしてしまうのか。
冷たい風がまた頬をさす。
今の風はこの世界の落胆のため息だろうか。