淫魔戦記 未緒&直人 2 〜覚醒〜-8
それより少し遅れた時刻に、直人と俊樹は連絡を取って落ち合っていた。
「え、と……篁俊樹君、だよね?」
自信なさげに問う直人に、俊樹はうなずいて答えた。
「未緒は?」
「見つかったよ」
さっそく食いつく俊樹をいなし、直人は言う。
「未緒を拉致したのは、街一番のグループだ」
「あいつらか!畜生、卑怯な手を使いやがって……って、あいつらが未緒を誘拐したからには、未緒を使ってビデオの一本や二本は撮っちまう!!あいつらは今どこにいるんだ!?」
取り乱す俊樹を、直人は首を振って抑えた。
「落ち着いて。そんなビデオは撮られても売りさばかれないから」
それが神経を逆撫でしたらしく、俊樹が叫ぶ。
「良くもまあそう落ち着き払っていられるな!?」
直人は正直に答えた。
「君が神保を甘く見ているからさ。うちはいろんな所にけっこうな人脈を築いている。そんなものは出回る前に潰せるし、撮ってるのは今なんだからマスターテープを見つけ次第再生不能なまでに壊してやればいいんだよ」
そう提示したが、俊樹はおさまらない。
「畜生!!好きな女が今あいつらに輪姦されてるのに!!」
止まらない俊樹に、直人は思わず正直な感想を漏らした。
「うらやましいな……僕は、堂々と好意の表明ができないから」
「……え?」
意外な一言に、俊樹はぎょっとする。
「……!行こう。少し歩くから」
ぶっきらぼうに言うと、直人は歩き出した。
追い付きながら、俊樹は質問する。
「ちょっと待てよ!あんた、未緒の事を……!?」
「……」
答えない直人の肩を、俊樹が掴む。
「おい!」
「……僕が未緒に会ったのは、半年前の事だ」
突然の独白に、俊樹は手の力を緩める。
「未緒は患者としてうちへ来て、かなり特殊な症例だからと僕が直々に診た」
「……それで?」
「……運び込まれてきた時は、痛々しい姿だったよ。ロープで手足を拘束された上、猿轡まで噛まされて……少し正気を失いかけていたけれど、それでもとても綺麗だった」
「……」
「一目惚れだった。惹かれるのに、理由も理屈もいらなかった……でも僕は『治療』のために、未緒を抱いた」
「……え?」
言われた事が信じられなくて、俊樹は間抜けな声を上げた。
「どうしてそうするのか、理由はちゃんと説明したよ。未緒は納得して全部僕に任せてくれたけど……未緒は、処女だった」
「!?」
「本当は、不本意だったと思う。好きな人とデートして、初めて一緒に過ごす夜にでも破られるものを見知らぬ男にいきなり奪われたんだから」
「あんた……」
「でもそうやって未緒を抱きながら、僕は一目惚れした以上に未緒に惹かれていくのを感じていた」
「……」
「未緒の事が、好きだよ。でも告白はできない」
「……どうして?」
「彼女には、『治療』が必要なんだ。それもまたセックスで、今の所『治療』に僕以上に適した人間がいない。そんな人間が告白して、拒まれたらどうなると思う?僕の告白は、未緒の人生をめちゃくちゃにしかねないんだ」
「だから一目惚れしても……それ以上に好きになっても……半年も告白しないでいるのか?」
「そうだ」
−鉄の意志。
俊樹は、そう思った。