全てを超越『3』-3
「不思議そうな表情をしているな。なに、これは交換条件だ」
「いやいや、さすがはイチタ君。良いこと仰りますこと」
何これ、羞恥プレイですか!?
こ、交換…って、まさか!?
「ふむ、察しがついたようだな。イチタの個人的情報を知りたがった彼女に報酬として、イチタの返答を一言一句漏らさず教えてもらった。教えてもらった理由?個人的興味だ」
「そう、その通り!」
「……今日ほど、友達を選ぶべきだと後悔する日は多分この先ないな」
俺、絶対友達間違えた!
「いい友達ね」
どこが!?
場の空気読んで下さい、お願いだから!
このままじゃ俺のキャンパスライフ…先が思いやられる。俺の精神と胃、どっちが先にイカレるかなぁ?
はぁ、とため息をつく。
「一兄ぃ〜!」
う、胃痛の原因になりそうなのがまた来た。
「悪いんだけどさぁ、バイト先まで乗っけて……あれ、何胃潰瘍に悩まされる中間管理職みたいなオーラ出してんの?」
表現がリアルでやってられん。
「彼女は…?」
「あぁ、あいつは…」
「あ、朝霧先輩だ。はじめまして、一兄の幼なじみで川島春子って言います」
俺が紹介する前に、春子が自己紹介した。妙に元気いいな?
「朝霧鈴です。よろしく」
差し出された手を、春子が慌てて握る。
和やかな雰囲気だ。ちょっとは俺の胃痛も緩和される。
サンキュー、春子。
「負けませんから」
「そう、あなたもなの」
バチッ!!
うぉっ!?
何だ、今の!?
「イチタは罪な奴だな」
「全くだ」
え?え?
何々、この阻害感?
「それで、君はどっちを乗せてくれるの?」
「あ、そうだよ一兄。あたしこのままじゃ遅刻だ!」
いや、んな事言われてもなぁ……。
「俺、今日はバイクで来とらん」
一瞬、沈黙が場を支配する。
「聞いてないわ」
「だって言ってないし」
う、朝霧がたじろぐ。
ふ、ちょっと勝った。
「えぇ〜……じゃあ良いや、北見先輩、お願いします!」
相変わらず変わり身早いな。
「む、別に構わないが、ヘルメットは持っているかね?」
「大丈夫です!一兄に買ってもらったメット、ありますから」
「え!?」
春子の一言に朝霧が反応する。
その後ろで『それなら』と了承した泰明が春子を連れていく。
あれ、春子が笑ったような……。
「どういう事?」
ちょっと考えるが、朝霧の一言で現実に連れ戻される。
朝霧さん。目が怖いッス。
「あいつが後ろに乗せろ乗せろうるさいから、安物買った」
五千円くらいの安物だ。
「羨ましいわ。私も買って欲しい」
「いや、朝霧さんはご立派なメットをお持ちじゃないッスかぁ」
高いぞ、それ。
「私はあなたから欲しいの。あなたからの贈り物なら、どんな安物だろうと嬉しいわ」
こいつは……。
しかし、駄目だね。
「却下」
「……どうして?…私より、あの子の方が好きなのね」
いや、どうしてそうなんの?
必死で涙を堪えようとしてる風に見えなくもない。