【魔術師】の戦いと受難 いち 〈上〉-3
「兄さんが居るんですか〜。奇遇ですねぇ〜。」
この間延びした声をして俺を兄さんって呼ぶのは一人だけだ。
「間延びした声じゃあないですよぉ〜。兄さんったら酷いですぅ〜。」
その女子、つーか聞いてて分かるかもしれんが俺の妹だ【未菜(みな)】って言う俺の一つ下、背は小柄で印象は何て言うか小動物を思わせる。髪と目は俺て同じで双黒だ。学科は、俺と違い【魔法科】だ。・・・・・って!
「お前よく俺の考えてること分かったな!!俺の心の声でも聞こえてんのか?」驚く俺に、
「兄さん、思ってることが声に出てますよ。」
そう言った。
「・・・・・マジ?」
「マジです。」
迂濶だった。マジで迂濶だった。
「まっ、まぁ良いや、美袋さんの用事って何なんですか?何時ものことならお断りするよ。」
そう言い俺は話を進めようする。・・・後ろから何か聞こえてるが無視だ。
「今日は違うのよ。大事な事だからしっかり聞いて頂戴。」
どうやら真面目な話のようだ。俺は姿勢を正して聞く事にした。
「最近この辺りで傷害事件が起こってるの。」
怖いですねぇ、と未菜。確に怖いな。でも
「只の傷害事件なら俺には関係無い事じゃないんですか?」
只の傷害事件なら【魔術】を使える俺には回避の手だては多くある。・・・だか、「そうね、でも襲われているのは【魔術科】の生徒や少しでも【魔法】を使える人なの」
・・・・・嘘だろ、【魔法】や【魔術】は最強の武器でもあるんだぞ。
「それに襲われた人は【魔力】が著しく低下してたのよ。」
驚いている俺に美袋さんはそう付け加えた。
「ありえねぇ!!【魔力】が低下ってほとんど無いことだろう。そんなこと無茶な魔術実験するとか魔法生物に【捕食】されるぐらいだろう!」
いきりたつ俺に
「静かにしなさい。そんなこと解ってるわ。私も色々対策を考えてるしとってるから。だから貴方も気を付けて。」
美袋さんは静かに言い忠告してくれた。
「・・・・、分かった。気を付けることにする。」
「お願いね。貴方が居なくなるとつまらないから。」それかよ、心配してくれたのは嬉しいけど。
「・・・・・ところで、」
「ところで、何ですか?」嫌な予感がする。
「【魔術科】に転入しない」
やっぱり。これがなければ良い人なんだが。
「結構です。じゃ、帰りますね。」
そして席を立つ俺に
「あっ!兄さん用事は終わったんですかぁ〜。なら一緒に帰りましょうよぉ」
居たっけな、忘れてた。
「忘れてた、は無いですよぉ〜。」
また、声に出てたか。
「分かった。悪かったって、じゃぁ帰るか。」
「はぁ〜い、って待ってくださいよぉ。」
俺と未菜は揃って帰ることにさた。
鉄骨が剥き出しな無骨な壁、今はそれが赤黒く彩られている。空は漆黒の闇、ヒビ割れた窓から入る月の光だけが唯一の光だった。辺りはむせかえる程の鐵の臭い、何一つ生き物は居ない様に感じる。だが、闇にうごめく影がある。
グチャ・・ジュルッ、ジュッジュルゥ・・・・グチャ、グチャ。
何かを咀嚼する音、何かを燕下する音、それが廃屋に木霊する。
影は思う。
-足りない、足りない。体が保てない、体が崩れる。欲しい、欲しい【魔力】が欲しい、もっともっともっと沢山、【魔力】を食べたい。
影はそう思い、咀嚼と燕下を続ける。影の目に映るのは目の前の〈獲物〉だけだった。・・・