想いの行方U-5
「ねぇ、麻衣は何作るの?」
「ん?」
「バレンタイン」
「あぁ」と分かった顔をして、麻衣は雑誌を取り出した。
付箋のしてあるページを開き、にこっと笑って指さす。
「これ!」
「チーズケーキ?」
「そう!速水くん、チョコあんまり好きじゃないらしいから」
はにかみながら口元を緩める麻衣は恋する乙女だ。
「心は何作るの?」
「買う」
「え〜!手作りのがいいって」
「作れないし」
「一緒に作ろうよ!」
「面倒くさい」
その後も麻衣は何度も「一緒に作ろう」と誘ってくれたけど、私は首を横に振るばかりだった。
そんな私に麻衣は「もうッ!」と頬を膨らませた。
作るのが嫌なわけじゃないけど、私のキャラじゃないと思ったから。
――――
矢田の誕生日を二日後に控えた日、やっぱり周りは落ち着きがなかった。
女は材料を買いに行く。
男は女に優しくする。
「潤平くん〜今年は何がいい?」
教室のドアの前で矢田と話しているのは、矢田ファンの女の子たち。
「あー俺、今年は受け取らないよ?」
「えー何で?!」
「何でって…彼女いるし」
「別にいいじゃん」
「いや〜毎年くれるのは嬉しいんだけどさ…」
「私ら潤平くん好きだもん(笑)渡すくらい彼女も怒らないでしょ」
女って本当に怖い。
何より、何の悪意もなく「好き」とか言ってのけるところが…。
何だか居心地が悪くて教室を出た。
恋をすると本当に面倒くさい。