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僕とお姉様
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僕とお姉様〜前に進む賭け〜-1

家の中は重かった。
居間のコタツの向こう側に父さんとひばりちゃんが座り、手前にはお姉様が正座をして帰ったばかりの僕を気まずそうに見上げた。その目は明らかに助けを求めている。
腕を組んだ父さんはまっすぐ僕を見て低い声で座るように言う。逆らえる雰囲気ではないと判断して大人しく向かいに腰を下ろした。
数秒間の沈黙の後、並んで座る僕とお姉様に交互に目をやり神妙な面もちで口を開いた。

「どういう事だ?」
「何が」
「付き合ってる人がいるのは構わんが親に紹介もしないで同棲を始めるなんて」

…なんつー誤解だ。
そりゃそう思われても仕方ないけど。『酔っ払いを介抱した』という理由で連れ帰ったお姉様が大荷物を持って僕の服を着て再び現れたからだ。
でも…
ちらっと目線を前に向けるとそこには新婚2人の姿。
怒る父さんの腕にひばりちゃんが自分の手をそっと添えてなだめるように声をかけている。
無性に腹が立った。
何で僕が責められなきゃいけないんだ。僕はまだ何もしてない。お姉様の事は今から話すつもりだったんだ。紹介も何も僕だって名前すら知らないよ!それなのに話も聞かずに怒って、怒りたいのはこっちだ!!

「強、何とか言ったらどうなん―」
「自分らは勝手に結婚したくせに俺が勝手な事したら文句言うわけ?」

一生言わないつもりの本音を吐き出した。
現実から逃げ続けたかった。口にすると結婚を認めた事になる気がするから。
でも実際に肩を並べて座る2人を見たら、悔しいとか悲しいとかムカつくとか、負の感情しか出てこない。

「40近いおっさんが16の女子高生と結婚なんて気持ち悪くてしょうがねぇよ!」

普段温厚な僕が珍しく声を荒げるから父さんもひばりちゃんも驚いた表情で僕を見ている。

「そんな言い方はないだろ!それに16になったら結婚するって話はお前も聞いていただろう!?」
「聞いたけど…っ、それは…そーゆう事は父さんが自分の口で言うもんだろ!!」
「俺はお前が納得してくれたものだと思ったから」
「あんたは俺に反対されるのが嫌だから説明しないで逃げただけじゃねぇか!実の父親がロリコンだったなんて納得できるか!!!!」

叫んですぐに自分の部屋へ向かった。
ひどい事を言った認識はあった。僕の言葉は父さんもひばりちゃんも傷つけたはずだ。
でも僕はもっと傷ついてる。
だから、僕は悪くない。

「強君!」

後を追ってきたのはひばりちゃん。
意外。
どうせ父さんについていると思ったから。
不安そうな顔。
でも、すごく綺麗になった。
女の子の中では長身でスラリと手足は長く色白で小さな顔に栗色のショートカットがよく似合う。男より女にモテるんだって笑ってた。
2人っきりになれたってちっとも嬉しくない。だって、君が今ここにいる理由は父さんの為でしょ?だったら…

「俺なんかほっといて父さんのとこに行けば?」

ひばりちゃんは僕と少し距離をおいて、申し訳なさそうに頭を下げた。

「ごめんなさい」
「何が」
「結婚、あたしのわがままを聞いてもらっただけだから」
「…」
「お父さんは、こんなに早く結婚する事はないってずっと言ってくれてたの。社会に出れば色んな人と出会えるし、自分みたいなおじさんに一生縛られたらもったいないって…。あたしが社会に出て何年か仕事をしてそれでも気持ちが変わらなかったら結婚しようって」
「だったら父さんの言う通りにしろよ!こんなに早く結婚してどうすんだよ」
「一日でも長く夫婦でいたかったの。あたし達20以上も年が違うから、卒業や就職を待ってたらお父さんがどんどん年とっちゃうもん」
「そんなにあいつが好きか!?」
「好きだよ!ずっと好きだった!!」

はっきり力強く言い切られて、その質問をした事を深く後悔した。


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