僕とお姉様〜前に進む賭け〜-3
そこまでは、いつも通り。
薄い湯気がまず僕の視界をぼんやりかすめて、それが晴れた瞬間目に飛び込んできたのはパジャマ姿の父さんとひばりちゃんが僕を見て慌てて離れる一連の動きだった。
…え?
今、この2人…
僕の見間違い?
まさか、抱き合っ…
「つつつよし!?起きてたのか!!」
「強君!?あのね、これは―」
動揺100%。
僕が寝てると思ってコソコソいちゃついてたのか。へー…
「…っていい年してキモいんだよ!このバカ親父!!」
叫んで、壊すつもりでドアを閉めた。その勢いのまま階段を駆け上がり部屋へ入るなり、
「クソ親父!!!!」
再び叫んで力の限り壁を殴った。
ほんの数分前までできるだけ静かになんて考えていた事をすっかり忘れて思いつくだけ父さんへの暴言を連呼し続ける。
当然寝ていたお姉様は目を覚ました。
「山田ぁ?何の騒ぎ…」
「騒ぎどころじゃねぇよ!あのエロじじいっ」
「はぁ?」
極度の怒りと興奮で喉を枯らしながら今見たばかりの衝撃シーンの説明をしたけど、お姉様の反応はあっさりした物だった。
「別にいいじゃん」
「いくねぇっ!女子高生相手におっさんが何してんだよ!!」
「あのねー、夫婦なんだから抱き合いもすりゃ一緒に風呂も入るって」
「一緒に風呂だぁ!?」
「だって2人でパジャマ着て脱衣場にいたんでしょ?見たまんまだと思うけど」
「…殺してやる」
「物騒な事言わない。それに山田が寝た頃を見計らってそーゆう事するんだから良心的じゃない」
「どこがだよ!!!!」
すっかり感情的になっている僕を見て、お姉様はすごく面倒くさそうに起き上がり毛布をマントの様に羽織ってベッドに腰掛ける。
「もー…、山田はさっき何の為に泣いたわけ?吹っ切る為じゃないの?」
「あれはっ、ただ単に振られたから…、ていうか泣いたとか言うなよ!」
「本当の事でしょ。早く忘れて新しい恋でもしなって」
「そんな簡単に気持ちの切り替えができるほど器用じゃないんですよ」
「じゃあお姉様が特別に前向きになれる魔法の言葉をかけてあげよう」
そう言って意味ありげに笑いながら立ち上がり、羽織っていた毛布をパサリと床に落とした。
肌寒いこの季節にタンクトップとハーフパンツといういでたちは僕には少々刺激的で…そのまま僕との距離を縮めていつの間にか至近距離に来たかと思うと、手がすぅっと僕に向かって伸びて…
え?
何何何何?
何を…
「…?」
伸びた手は僕の目の前で指を二本立てた。
「好きな人ができたら二千円」
「金かよ!!」
「所詮人間なんて金が掛かればやる気が出るもんなのよ」
…これが、魔法の言葉?
くだらねえ…
一瞬でも艶っぽい展開を予想した30秒前の僕を殴ってやりたい。
「前向きになれた?」
「なれるか!大体人の事より自分はどうなんだよ。あの平成生まれはもういいのか」
「あたしは山田と違って一度泣いたら吹っ切れるタイプなの」
「あーそうですか」
「まぁもし山田が1人で寂しいって言うならあたしも参加してあげてもいいけど?」
「何を」
「賭け。好きな人ができたら二千円で、振られたら返金、両思いになれたら一万円ってどうよ」
「………いいっすよ(どうでも)」
「じゃあ決まり。こーゆうのは誰かと一緒にやらなきゃね」
「ぁぃ」
この人ほど張り切る気にはなれず、声も自然に小さくなる。