僕とお姉様〜前に進む賭け〜-2
『ずっと好きだった』
僕も君に言いたい。
でもそれは一生隠しておかなければいけない言葉になった。
「お父さんはロリコンなんかじゃない。あたしの事も将来も真剣に考えてくれてる。もちろん強君の事が一番だけど。だから、お父さんを悪く言わないで」
そんなに必死になるなよ。
僕が君を見ていた時間はなんだったの?
僕んちで一緒に過ごした時あんなに楽しそうだったのは、いつか父さんと本当の家族になる未来を夢見ていたから?
「強君…」
「んな顔するなよ。父さんが大事なら行っていいよ。俺は、もういいから」
「あたしは同じくらい強君も大事」
「…俺って、息子?それともお兄ちゃん?」
冗談っぽく笑って聞いてみた、僕にできる最高の強がり。
「分かんない。だって強君はずっと家族だもん」
そう言って笑う君の顔は昔のままなのに、どれだけ手を伸ばしても爪の先さえ届かない。
僕の顔を見て安心したのかひばりちゃんは部屋から出て行き、入れ替わりで来たのはお姉様。
僕の横に座って色々話し始める。
「山田父の誤解はといたよ。うちら付き合ってないし、一応成り行きも説明したから」
「…」
「山田と話したいって。電撃結婚の言い訳とあたしの今後についてだそうです」
「…」
「それと今ちょっと聞いてたんだけど、あの子ちゃんと真剣なんだね。もっと何も考えてないただの世間知らずかと思ってた」
「…」
「やーまだ」
「…」
「肩くらい貸してやるって」
最後の言葉で僕は歯を食いしばれなくなった。
「…ひぃぐっ」
大きく嗚咽してすでに涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている顔を細い肩に乗せた。
お姉様は『遠慮するな』とでも言うように、ぐしゃぐしゃの僕の顔に自分の顔をもたれさせてただ隣にいてくれる。
初めての失恋はあまりにも衝撃が大きかったのと同時に自分の自惚れや鈍さが恥ずかしくて情けなくて、今は泣きじゃくるしかできない。
「…っぐ、えぐ…ぃっぐ…」
もたれかかる肩はみるみる濡れていく。
今の僕は間違いなく世界中で一番間抜けで不幸でみっともない男だ。
だけどこうして誰かが肩を貸して泣かせてくれる事は、もしかしてすごく恵まれているのかもしれない。
相反する思いを抱えて僕は暫くお姉様の存在に甘えさせてもらった。
そこは昔からの指定席のように僕をぴったり受け止めてくれて、その居心地の良さもあり涙は蛇口がいっぱいに開かれたように流れ落ちていった。
気がつくと部屋は真っ暗で、僕は布団の中にいた。
あのまま寝ちゃうって子供かよ。
のろのろ起き上がってふと横を見ると、僕のベッドを自分の物のように占領して毛布にくるまったお姉様が気持ち良さそうに寝息をたてていた。
お礼とか言った方がいいのかな。
「…」
とりあえずいっか、寝てるし。それより乾いた涙と鼻水のせいで顔がぺとぺとする。
風呂入ろ。
下着とパジャマを持ってお姉様を起こさないようにできるだけ静かに階段を降りていつも通り脱衣場のドアを開けた。