蜘蛛〜Spider〜
蜘蛛の巣(前編)-1
「何でこんな所で…?」
「さぁな。」
50歳を越えベテランと呼ばれる刑事‘原田’は、‘松下’に答えた。
「はぁ…転勤していきなり殺人事件なんて、僕、運ないな…」
「確かにそうだな。まぁ、刑事になった運命だと思って諦めろ。」
「そうですね…」
松下は、ため息をつきながら答えた。
「でも、被害者には悪いがある意味ついてるかもな。」
「えっ?どういうことですか?」
わけのわからぬ言葉に松下は、その真意を聞いた。
「そろそろかな。」
原田は松下の質問に答えず時計に目をやった。
松下がなにがそろそろなのかと思ったと同時に、まだ、20代前半と思える男がやってきた。
「うぃーす」
やってきた男は、今時らしい挨拶を原田にした。
「おっ!噂をすれば、なんとやらだな。どうした?元気がないぞ?」
「どうしたもこうしたもないっすよ!俺はデート中だったんですよ!デート中!それを呼び出されて、元気なんかでませんて!」
そう言い放った青年に対し原田は、‘どんまい’と言うかのように肩を叩いた。
肩を叩かれた青年の名は雲形泰介(くもがたたいすけ)。この物語の主人公であり、原田の部下である。
「雲形、現場の説明するぞ。」
「うぃ。手短に頼みますよ。早く片付けて、電話しないと、彼女に嫌われちゃいますから。」
「そうだな。それで何回フラれたことかね…」
「原田さん!いいから早く説明!」
原田の言葉に少し腹を立てたのか雲形は、怒鳴るように答えた。
「あはは、すまん。現場だがな…」
原田は、手短に話したつもりであったが長々と現場説明をした。
「なるほど、つまり簡単にいうと、殺されたのは女性。場所は非常階段。凶器は鈍器でまだ見つかってない。ってことっすよね」
「まあ、要約するとそうなるな。」
「始めから、これくらい短くて充分っす。」
「んなに、カリカリするなよ」
雲形は、原田の長話でイライラが頂点に達したのかとても不機嫌であった。