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痛みキャンディ
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痛みキャンディ6-1

あの景色を見れば何かがわかる… 
おれはそんなことばかり最近考えていた。 
そうあの景色を。 
もう見ることのないあの景色を… 


電話の声はおれのよく知っているあの人だった。 

おれを捨てたあの人。 
今さら何がしたい… 
胸の中は何か気持ちの悪いものがぐるぐると回り始めた。 
例えようのない感情がおれを縛り付ける。 
それは怒り? 
それとも愛しさ? 
恐怖? 
哀しみ? 
おれは知りたくない。 

怖かったんだ。 
それを受け入れてしまうことで積み上げてきたものがガラガラと音を立てて壊れてしまいそうで。 
用件はすぐわかった。 
突発的におれは電話を斬ってしまった。

母はおれを捨てた。 
捨てたというと被害妄想かもしれないが、ある日突然いなくなってしまった。 
視界は暗闇が広がった。 
親戚の家に引き取られてからは厄介者として扱われ、毎日罵声を浴び続けた。 
言葉の凶器がまだ幼かったおれの心を切り刻んだ。
望まれない存在なの? 
迎えにきてよ… 

迎えに… 

毎晩泣いた。 
泣いて泣いて泣いて泣いてそしていつか涙は枯れてしまった。 
痛みは麻痺してしまった。おれの唯一の防衛手段だったから。 
まるで歯医者で麻酔注射を受けたような感覚だった。 
心がオブラートのような見えないものに包まれてすべてがボンヤリとするばかりだった。 
違和感を感じながらも生き抜くために必要なことだと悟った。 
痛みなんてないほうがいい。 
傷つかないほうがいいに決まっている。 
頑なに閉ざしたそれはそれから開くことはなかった。 


本当は迎えにきてくれるのを待っていたんだ。 
おれを救ってくれるのを待ち望んでいた。 

しかし迎えには結局来てくれなかった。

それが10年の時を経て今さら…… 

感情は怒り一色になった。汚い黒色。 
汚れた漆黒の闇のような。 
あの景色が見たい。 
あの人を見た最後の景色を。 

おれはどうしたらいいのかわからなくなった。 
耳を塞いで身体を凍り付かせた。 
誰もおれの中に入ってこないで。 
これ以上傷つきたくない。 
おれを壊さないで…

目を閉じたら楽になれるかな? 
もう考えるのもやめよう。 
いいんだ。
もういいんだ。 


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