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痛みキャンディ
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痛みキャンディ5-2

「ここに思い出が沢山あったんですよ。」
中年の男性は話し掛けてきた。 
「はぁ。そうなんですか…」
そっけなく受け応える。

「それがなにもかも壊されちゃってねぇ。」

と切なそうに俯く。 
瞳には涙がこぼれそうなくらい溜まっていた。

おれはキャンディを取り出した。 

あと二粒。 

コーラの味と淡い炭酸が弾けた。 

何かが自分の中に広がってきた。 
それは 
封印したはずの遠き日の思い出。 
黒ずんだ過去。 

おれはただ泣いていた。 
飼っていた犬が死んでしまったから。 
お墓を作ってあげた。 

あっけない死への哀しみよりも言葉にならないような孤独感と切なさでいっぱいだった。 
一緒に散歩した。 
頭を撫でながら寝かしつけた。 
一緒に家出もした。 

そんな思い出が弾けてしまうのが怖かった。 

死そのものを受け入れず、その痛みからも逃げていた。 

全ては変わる。 
別れは必ずやってくる。
クゥを飼おうと思った時もそのためらいがなかなか払拭できなかった。 

はっと我にかえるとおじさんはおれの肩を軽く叩きながらこう言った。 
「それでもね、胸ん中にたくさんあるんですよ。うれしかったことも、悲しかったことも。
愛しい全てが。
だから全てなくなったんじゃないんです。」
と優しく諭すように。 

それはおれが泣いていたからだろう。 
意味もなくおれはなきじゃくっていたから。 
その手はとても暖かかった。 
「ありがとうございます。」
おれは照れ臭くなっておじきだけしてから走って帰った。 

思い出は形を変えて生き続ける。 
おれのあの思い出もきっとまだ生き続けているのだろう。 

涙を拭いておれはクゥの待つアパートへと向かって走った。 


家に着くとさっそくクゥにえさを与えた。 

その時。 

ジリリリ…… 
ジリリリ…… 

電話が鳴りだした。 

それはあの人からの10年ぶりの電話だった。


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