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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*14*-2

「明樹…ちゃん…!!」
いつか来る時が来てしまったんだ。分かっていたのに、まさかこんなに早く来るとは思わなかった。
明樹ちゃんの笑顔も声もずっと手を振っていた姿も、鮮明に覚えている。
もっといっぱい話したかった。もっと仲良くなりたかった。
でも、それはもう出来ないんだ。
「…ふっ、うぅ〜っ…」
自然と涙が溢れてくる。
手の甲であたしは何度も何度も拭った。それでも、明樹ちゃんの言った言葉があたしの頭の中に浮かんでくる。


『お兄ちゃんのこと、よろしくお願いします』
『最初で最後の友達だから…』


明樹ちゃんは自分の死期を悟っていたに違いない。少し考えればそれくらい分かってあげられたのに。毎日お見舞いに来てあげれば良かった。明樹ちゃんにとって唯一の友達なのに、あたしは何もしてあげられなかった。
「ごめん、ね…」
あたしはもう一度明樹ちゃんの手に触れた。やはり、生きている人間の体温ではなく、ひんやりとして人形のようだった。
「…ご、ごめ……」
もう声すら出せなくなっている。分かっていたのに、いつこうなってもおかしくなかったのに、矢上にはあんな大層なこと言っといてどうしてあたしは…。


―ク…ンッ。


「…っ?」
不意にあたしは何かに押しつけられた。体が包まれている感じがする。頭の後ろが圧迫されて、強く、けれども優しく押し付けられている。
「…明樹は」
耳元で矢上の声がした。それであたしは、やっと現状を理解した。
あたしは矢上に抱き締められている。矢上の腕に包まれて、矢上の大きな手で頭支えられ、矢上の胸に押し付けられている。
「明樹はあの日、本当に楽しそうだった。次の日もずっとオレに音羽ちゃんの話しかしなくて…。学校でどんな感じなのか教えて、とか言っちゃって…」
あたしは矢上の洋服を握り締めた。自分の非力さが悔しくて、涙は止まるどころかますます多くなる。
「だから、明樹は音羽ちゃんに謝って欲しいなんて思ってないよ…」
「…あたしは…何かして、あげたいって…言ったの…に…でも…結局何も、してあげ、られなくて…」
「ううん。音羽ちゃん、オレに言ってくれたよね?明樹が『幸せだった』『楽しかった』って言えるようにって…。明樹、一番最後なんて言ったと思う?」
あたしは何も言えず、ただ首を振ることしか出来なかった。


「嬉しそうに笑ってさ『明樹は幸せ者だね』って…」


きゅっと矢上の腕に力が入った。
「病気の苦しさよりも、楽しい思い出の方が大きかったんだよ。だから、音羽ちゃんは謝る必要なんて無い…むしろ…」


「音羽ちゃんには『ありがとう』を…」


矢上の声はすんなりあたしの頭の中に入ってくる。心臓がキュゥゥと痛んだ時、あたしは声を上げて泣いた。矢上があたしの体を支えてくれているから崩れ落ちはしないけれど、体に全く力が入っていなかった。
だけど今流れている涙は後悔の涙じゃない。だからと言って何の涙かと聞かれても答えられないが、確実にマイナスの涙ではない。
あたしも明樹ちゃんに「ありがとう」と言いたい。
こんなあたしを友達にしてくれてありがとう。
綺麗な笑顔を見せてくれてありがとう。


それと…


幸せ者だと言ってくれて、本当にありがとう。


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