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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*14*-1

時計が午後の一時を過ぎた頃、あたしのケータイが鳴った。
「誰だろ…」
ディスプレイには携帯電話の番号らしき数字が並んでいるが、この番号をあたしは知らない。
「もしもし…?」
少し警戒しながら通話ボタンを押して、ゆっくり耳に当てた。
『もしもし、音羽ちゃん?』
聞き慣れた声…。
「矢上!?」
『ごめんね、いきなり電話しちゃって…。音羽ちゃんの番号は樋口に教えてもらった』
「あぁ、そっか。で、どうしたの?何か用?」
矢上は「うん…」と言って何も喋らなくなってしまった。数十秒ほど沈黙が続く。
「…言いたいことがあるから少し出てこれる?」
矢上の声が心成しか震えている。様子がおかしい。何だか嫌な予感がした。
「うん、大丈夫。あたしはどこに行けばいい?」
『……病院』


「矢上!何?どうしたの!?」
病院の玄関に矢上が立っていた。あたしは自転車を降りると急いで駆け寄る。
「音羽ちゃんだけには教えておきたかったんだ。ついてきて」
くるっと背を向けて歩きだす矢上。あたしのこと、一回も見てくれなかった。それに矢上お得意の笑顔もなし。ずっと無表情で、なぜか悲しそうな雰囲気を醸し出していた。
やっぱりおかしい。あたしの不安は一層大きくなった。


あたしは五階の病室の前に連れてこられた。個室らしく『矢上 明樹様』と一人だけの名札が付いている。
「明樹ちゃん、どうかしたの?」
あたしは矢上を見上げた。少し目が合う。その目があまりにも悲しそうで、あたしはドクンと心臓が鳴った。
無言で矢上がドアノブを回しゆっくり押す。


「明樹、ちゃん…?」


あたしが名前を読んでも明樹ちゃんは返事をしてくれなかった。
あの笑顔で、あの明るい声で「こんにちはっ!」と言ってはくれなかった。


明樹ちゃんはベッドの上に寝たまま、ちっとも動かない。
「明樹ちゃん?」
引き込まれるように、あたしの足は自然とベッドに向かって歩いていた。
「明樹ちゃん」
あたしの目は明樹ちゃんに釘付けになっていた。
目の前に横たわる明樹ちゃんは二日前となんら変わりはないように見える。ただ、普通に眠っているだけ。今、大きな音を立てたら起きだしそうだ。
明樹ちゃんの右手がベッドの上に置かれている。
あたしはゆっくりそれに自分の手をあてがえた。


―……!?


冷たい。
二日前はあんなに温かかったのに。見た目は何も変わっていないのに、明樹ちゃんの手は『死んだように』冷たかった。


死んだように…。


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