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■LOVE PHANTOM ■
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■LOVE PHANTOM■五章■-5

「ただの氷じゃない。これは・・・。」
靜里は思い出したよう顔を少し上げ、
「テレビとかでやってた・・・絶対零度の世界」
真面目な顔で叶を見上げた。
叶は上から靜里を見つめ、そして少し笑った。
「そうだ。これが俺の能力さ。その気になれば、人間を凍らせることも出来る。」
そう言うと叶は、靜里に手を差し伸べ、ゆっくりと引き上げた。
「それにこれも見てみろ。」
叶が指さしたのは、さっき短刀で刺された部分である。着ていた服は、その部分だけがぼろぼろに裂かれ、傷のまわりには乾きかけた血糊がべっとりとついている。
まるで、子供がいたずらをしてつけたケチャップのようだ、と靜里は思った。
彼の傷を見ていると、叶の背中の方から風がそよそよと流れてきた。うっすらと感じる、血の匂いが、靜里の鼻をつき、おもわず彼女は、叶に向かって小さくクシャミをしてしまった。それを見た叶は、呆れたというような顔付きで言った。
「この傷を見てみろよ。何かおかしくないか?」
再び靜里は、叶の傷へと目をやった。
彼女の目に映ったのは、ぼろぼろの服、それにこびりついたどす黒い血糊、いつの間にかついた泥、そして・・・。
「あれ?」
奇妙な事に気がついた靜里は、叶の傷がある場所へ、より、顔を近づける。よく見えるように、目を大きく見開き、血糊の濃度が一番高い部分へと、より強い視線を向けた。
しかし、どう見ても、その中から、刺された傷だと思われるものは見つからず、靜里は息を飲んだ。
「傷がない。なんで、さっきまで血も流れていたし。」
靜里は、一歩、後退すると、叶の顔を見た。この奇妙な状況を、よく飲み込めず、なんて言っていいのか、分からないでいるのだ。
「この体も、そしてさっきの能力も生まれもってのものだ。」
先に話を進めてきたのは叶の方だった。
風になびく髪を、片手で押さえながら、空を見上げ、月の姿を、その瞳に映している。雲はいつの間にか晴れ、どこかへいなくなってしまっていた。月の光が、叶を照らしている。
同じように照らされている靜里は、月ではなく、それを見ている叶を見ていた。
悲しそうな瞳の色が、彼女の視線をくぎづけにしている。
小さくため息をつき、
「靜里、お前はドラキュラ伝説を信じるか。」
叶が言った。
突然の質問に、靜里は首をかしげる。
それを見た叶は、だろうな、と、いうような表情で苦笑した。
「ドラキュラ伝説が始まったのは、何世紀も昔のことだ。ヨーロッパに住むヴラド・ツェペシュの父、ヴラド二世がその根本とされている。」
静まり返ったキャンパスは、異様な雰囲気に包まれていた。叶の奇妙な話に、靜里は耳を傾けずにはいられない様子である。
「彼の残虐さは尋常ではなかった。生あるもの、形あるものの破壊、すべてを奪おうとする貪欲さ、そんな彼を、いつしか人々は「悪魔公(ドラクル)」と呼んだ。」
ごくりと唾を飲み込む靜里。
「そしてその息子、ヴラド・ツェペシュの呼称をドラクルの語尾変化形、ドラクラ、と呼んだんだ。その名は、時代が流れるにつれ、ドラキュラと呼ばれるようになった。」
叶はゆっくりと、震える靜里の側へ歩み寄り、後ろへ回った。そして、自分の両腕を、マフラーの様に靜里の肩からその下へからめ、彼女を抱き締めるように胸の中へ引き込んだ。
靜里は、その温もりに身を任せ、叶と同じように空を見上げた。震えは止まり、その心は落ち着いている。
「話を聞かせて。」
優しい声で靜里が言うと、静かに叶は頷いた。


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