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■LOVE PHANTOM ■
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■LOVE PHANTOM■五章■-6

「ある時、ヴラド・ツェペシュは幽閉された。狂ったように、彼はその中を何度も歩き回っては、断末魔のような雄叫びを上げたよ。」
「それで・・・?」
「今夜の月は、よく似ている。」
そう言うと叶は、靜里の小さな頭を片手で、くしゃくしゃと撫でた。
「あんな月が出ている夜だった。彼は結婚したんだ。相手はハンガリーの国王マチアスの実の妹だ。ヴラド・ツェペシュと同様、マチアスも狂っていた。自分の側に、
奇人変人をおくのが趣味だったらしい。だから彼はあえてヴラド・ツェペシュを妹と結婚させたんだ。ヴラド・ツェペシュはその女性を本気で愛したよ、彼女を守るためなら、この命を差し出してもかまわないというほどの情熱だった。狂いながらも、ヴラド・ツェペシュは本気だったんだ。」
「それからどうなったの?」
靜里が聞く。
「それから・・・二人の間には子供が三人生まれたよ。けど、その内の二人は後に死んでしまうがな、生き残ったのは三男のミルチャ。だが、子供が生まれたときには、既にヴラド・ツェペシュはこの世を去ってしまっていた、殺されたんだ。」
叶の低い声が、靜里の耳に響く。
「そして、ある時、ミルチャに不思議な現象が起きた。頭の中で、いや、体中で、誰かが囁いたんだ。「愛する女を守れ」、「俺の愛する女を愛せ」ってな。ミルチャは焦ったよ、しかも、その対象が自分の母親なのだから、よけい始末が悪い。結局、追い詰められたミルチャは母親を惨殺した、それによってこの呪縛から解き放たれる
と考えたからだ。」
靜里はきつく唇をかんで、目を閉じた。
「だが甘かった。今度は、生まれ変わった彼女を見つけろと言ってきた。ミルチャは言われたとおりに世界各国を回った。・・・結局見つからなかったがね。」
ため息交じりに、叶は言った。靜里を包んでいる両腕に、少しの力が込もり、靜里は叶を見上げる。
「それでおしまい?」
「いや、ここからが長いよ。」
叶の白い息が、靜里にあたる。
「・・・・ミルチャは日本にも渡ったんだ。その時に、ある女性と子供を作った。
彼自身がつくりたかったわけじゃない。それも、彼に流れている血液が命令したことだ。そうやって子孫を作っていくことで、どの時代に彼女が生まれ変わっても見つけることができると思ったからだ。」
「まさか・・・まさかそれって。」
はっ、とした顔で、靜里は叶の目を見つめた。今まで、はっきりしなかった何かが頭の中で、すべてつながった様な、そんな気がしたのだ。
靜里は、口を半開きにしたまま動かなくなった。
叶はゆっくりと目を閉じ、しっかりと、力強く、靜里の体を抱き締めた。痛いほど、強い、叶の腕の中で、靜里は熱い息を吐き出す。
「見つけた。やっと見つけたんだ。何代も何代も続いた呪縛は、これで、きっと解き放たれる。」
「叶が・・・ドラキュラの子孫。」
呟くように靜里が言った。
「・・とはいっても血も吸わないし、太陽に当たっても平気だ。」
「それじゃあ、さっき短刀を凍らせたあの力と、異常なまでの回復能力って。」
「ヴラド・ツェペシュの代からすでに備わっていた力らしい。そこらへんがドラ
キュラなのかもしれないな」
吐き捨てるように叶は言った。靜里を見つめている瞳が曇る。
それを見た靜里は、軽く笑うと、そっと叶の頬に両手をあてた。暖かな温もりが、叶を包み、瞳の曇りを消し去ってゆく。
叶の瞳の中には、靜里が映り、靜里の瞳の中には叶が映っている。
「叶は人間だよ。ドラキュラじゃあないから。」
「・・・・ありがとう。」
叶の言葉を最後に、二人はしばらくの間、口をつぐんだ。冷たい風が、二人を横切り、泥濘んでいた地面は、薄く氷を張り、雲のない空には、冬の訪れを伝える星座が、その姿を見せていた。


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