刃に心《第8話・開幕、是即開戦なり》-8
「あ〜、疾風…そっちはまずいぞ」
「?」
「朧殿ふぁん倶楽部による検問が行われておる」
楓は柱の影に疾風を手招きした。そこから、頭だけを出して入口を見た。
十数人の男共が妖しいと思う人物をチェックしていた。
「むっ…貴様、あの骸丸に体格が似ている!」
「はあ?」
「連行しろ!」
「ちょっと…何言ってんのさ!俺はただ劇を見に…ちょっ、ちょっと待て…いや…いやあああああああああああ!」
一人の男が捕まり、両脇を黒スーツにサングラスをかけた大柄なファンに抱えられ、悲鳴だけを残して何処かに連れ去られていった。
「………」
げっそりする疾風。もはや言葉すら見つからない。
「アホか…」
ようやく絞り出した言葉は単純明解、至極簡単。
「こっちだ。疾風」
疾風の袖を楓が引っ張った。そのまま、ファンの目を掻い潜って機材搬入用の裏口へ。
「こちらからなら、見つからないだろう」
「そうだな、此所までは流石に張り込んでないみたいだし…」
「ちょっと…遠回りになるが、仕方ないな♪」
「何で微妙ににやけてんのさ?」
「に、にやけてなど…」
こちらからならば、余計な邪魔(主に千夜子と朧)が入らないし、遠回りになる分、疾風と一緒に帰る時間も多くなる…
そんな楓の本心はともかく、疾風と楓はゆっくりとした歩調で今日の劇を語りながら家路についた。
夕暮れの陽射は柔らかく、二人の影を淡くぼかしていた。
続く…