特進クラスの期末考査 『淫らな実験をレポートせよ』act.4-8
「…ァッ」
桜がぴくぴくと身体を揺らす。矢田の舌が耳朶をなぞり、かぷりと口に咥えたからだ。
唾液でテラテラと光る耳朶。産毛を舌の表面で撫でると、うなじを縮めて桜が悶えた。
「んあっ、んんっ」
胸元で重ねた手を、そろそろと桜の手の下に移動させる。
じんわりと汗で湿ったワイシャツ越しに、かなり小振りな丘が出迎えた。掌にすっぽりと収まり、はみ出す事無く柔らかさが堪能出来る。
「桜ちゃん、可愛いよ」
呪文の様に繰り返す。矢田の甘い囁きが心地よい。
桜は、自分の心を固く結んでいた紐を矢田によって解かれていくのを感じた。
コンプレックスという戒めは、桜が恋愛から目を背け続けた理由だった。
人より背が高く、痩せっぽっち。何より胸の膨らみが少ないと言うのが一番切なかった。
小さくて、柔らかくて…そんな女の子になりたかった。
だけど、自分は逆立ちしたってなれっこない。
なのに矢田は……
「桜ちゃん、泣かないで」
矢田の指先が目尻を拭った。されて気が付く。自分が涙をこぼしていた事に。
ゆっくりと唇が降る。矢田の唇に、桜は自分が溶けてしまう様な錯覚を抱いた。
ドロドロと湯煎にかけられたチョコレートの様に、矢田と触れた部分から液化が始まる。
とっても苦いビターな自分を、矢田が溶かしてくれる。大丈夫、とっても美味しいよ、と褒めてくれる。
ああ、なんて自分は単純なんだろうか。
キスを深く繰り返しながら、矢田の指先がボタンを捕らえた。桜のワイシャツの、乳白色の小さなボタンを上から一つずつ外していく。スカートのウエストベルトの位置までボタンを外し、隙間から手を差し入れて桜の体温を味わった。
小さな花の刺繍が入った薄桃色のブラジャーが微笑んだ気がした。矢田はこぼれてしまいそうな笑みを押し込みながら、胸元に顔をくっつけた。
……ドクン、ドクン、と心臓の音がリアルに聞こえる。
「……んっ」
桜が恥ずかしそうに身体を固くする。緊張しているのか、鼓動が早くなった気がした。
差し込んだ手でブラジャーのホックを外した。
思わず桜が胸を隠す。それを見た矢田は笑みを漏らしながら、スカートを脱がせ、ワイシャツを脱がせ、ブラジャーを桜の手の隙間から抜き取った。
ショーツ一枚の桜の裸体は、女としての魅力もきちんと秘めていた。
滑らかな腹部や、丸みを帯びた腰、頼り無げなウエストは折れそうな程に華奢だ。
「桜ちゃん、すげー綺麗」
矢田の瞳が裸体に奪われる。
「は…恥ずかしいよ。矢田………智春も、脱いで」
語尾が恥ずかしすぎて掠れていた。矢田ではなく智春と読んだだけで、桜は真っ赤になっている。
あーもー可愛いっ、と目を細めながら、矢田が自分のネクタイに手を掛ける。結び目に指を引っ掛け、勢いよく引っ張るとシュルルッとネクタイが解けた。
ワイシャツを頭から脱ぎ、ベルトのバックルを外すとズボンを足でぐいぐいと足下に落とした。
広い肩、筋肉質な腕、へこんだお腹……初めて教科書で見たダヴィデ像の写真の様に、綺麗だけど凝視出来ずに俯いてしまう。桜は恥ずかしくて視線を逸らした。
「桜ちゃん」
矢田の声が響く。だけど直視出来ない。そんな桜を見兼ねて、矢田の唇が桜を捕らえた。
思いきり目を見開き、桜は慌てた。目の前では瞼を閉じてキスをする、矢田の端整な顔があった。
胸がきゅっと締まる。身体の奥が反応するのは、こんな些細な事だったりする。桜は夢心地で瞼を閉じた。