戸惑い、そして想う-4
細いチューブの生えた白いテツヤさんの腕を撫でて、力なく曲がっている指先に私の指を絡ませた。
私の頬を伝う涙が、テツヤさんと私の指の隙間に消えていく。
「…ご…めん…」
消え入りそうな声が聞こえた。私はばっと顔を上げた。
顔色は真っ白なままだけど、目蓋は薄く開かれ、そして確かに微笑んでいた。
「テツヤさん…なんで…なんでね…。こんなになるまで、こんなになっちゃうまで無理したの?嫌なの…私嫌なの…!」
絡んだテツヤさんの指先に、少し力が籠もったような気がした。
私はもう止まらなかった。止められなかった。
「テツヤさんがいないのは嫌なの、もっと家に居てほしいの。クレジットカードなんていらない。もっと…もっと、もっと…ね、
…傍にいて…。それだけなの。」
言えた。やっと言えた。我儘だと思われても良い。子供だと思われても良い。今、私の気持ちを伝えたい。
「ごめん…、マリごめん。」テツヤさんの目蓋はしっかり開かれ、視線は私を捕らえていた。
「僕達はお見合いでさ、…君みたいな若い奥さんが、…いつ僕に興味が無くなっても可笑しくなくて…。僕はいつも怖かった…。どうしたら良いかちっともわからなかったんだよ。君をどうやったら大切に扱ってる事になるのかわからなくて…。ただ仕事を必死にして、君のために会社を大きくすることしか思い付かなかったんだ。…ごめん。ごめん、ごめんな…マリ…。」
私はただ首を横に振った。―私達、あの時から何にも変わってなかったんだね。初めてお見合いしたあの時から。
「マリ。僕はいつも臆病で、君が離れることが恐くて、何も出来なかった。…大事なこともきちんと言えなかった。…だから今、今更だけど…ちゃんと言うよ。」
私は零れ落ちる涙を止められず、ひたすらこくこくと頷いた。
「マリ、ずっと…ずっと僕の傍に居て。君も…僕も、幸せになろう。
愛してるから。」
私達はお見合いをして、それからたくさん戸惑って、そしてお互いの想いを知ったね。
私は初めてテツヤさんのあのマシュマロみたいな笑顔を見た時と同じ気持ちで、テツヤさんにキスをした。
END