今は。そしてこれからもずっと・・・-5
「………」
みんな。みんな。全てが憎い。いなくなればいい。死ねばいい。僕も。
でも、蒲乃菜ちゃんは特別だよ。僕の好きな人。僕を拒絶して他の男を選んだ。
でも、僕はきみをうらんでなんかいないよ。だって僕は君が好きだから。
「………」
向こうから笑い声が聞こえなくなった。
そしてそれとともに聞こえてきた「あっ…」という蒲乃菜ちゃんの短い声。
そして僕は、固く重たい鋼鉄のドアを開けたんだ。
ギイイ………
軋みながら徐々に開いていく扉をゆっくりと開けていき、目の前を見つめた。
「………」
そこには蒲乃菜ちゃんがいた。傍らの男に抱きしめられて。
開かれたドアとそこに佇む僕を見て驚く蒲乃菜ちゃん。
男は蒲乃菜ちゃんを抱きしめたまま目を瞑っていたので僕には気付いてない。
「………」
僕は蒲乃菜ちゃんをただ見つめつづけていた。いつもと同じように。
蒲乃菜ちゃんの顔には明らかに脅えが浮かんでいた。
彼女の恐怖の対象は僕。
…ひどいね。僕は、ただ見つめているだけなのに。
…それだけしか出来ない僕を君は恐怖に彩られた瞳で見るんだね。
「…わかっていたことだよ。」
「こうなるって事は。僕がピエロだって事は。」
「だけど、そのことに気付いていない振りをしていたんだ。辛い現実を認めるのが嫌で。」
喋り始めた僕を紅い夕陽が赤色に染め上げていく。
それは僕の心から吹き出した血のような紅だ。
「蒲乃菜ちゃん・・・僕は君の事が好きで、君なしでは生きてはいけない、なんて思っていたんだ。
でも、君はそんな僕を、僕の思いに怯えるんだね・・・君のためになら死ねると思っていた僕は・・・
君を護るんだとおもっていた僕は、君を怯えさせていたんだね・・・。・・・ならいいよ。・・・もういいよ。」
「…ならば打とう。僕にまつわる全ての事柄に最後のピリオドを。」
僕は走った。蒲乃菜の向こうにある鉄のフェンスへ。
「…きゃ!」
いきなり走り出した僕に、身を竦める蒲乃菜ちゃん。
僕の存在に気が付いて、蒲乃菜ちゃんを抱きしめながら僕を睨みつける男。
トットット…
そんな彼らの脇を通り過ぎてフェンスによじ登り、一番上で立ち上がる。
「………」
下を見下ろすと相変わらず抱き合うふたり。
蒲乃菜ちゃんは、僕から目を逸らして俯いて震えている。
…そうか。そんなに僕を拒むのか。僕が恐いか。僕が嫌いか。その男がいいか。
「さあ…蒲乃菜ちゃん!君の為に死ぬ男がいるんだ。君は嫌だろうけど
せめてその最後くらいはみてやってくれ。さようなら…」
そして天に向かい大きく手を広げて僕は羽ばたく。
僕と蒲乃菜だけの二人だけの永遠の世界に向けて
「ははは…はっはっはっはは……!」
空中へと僕の身体を躍らせ、飛び立つ……………
堕ち逝く身体と僕の精神の狭間。