云って、欲しい。-3
明日も明後日も、君がそうやって笑ってくれる事を願うよ―――滝田は笑う夕香を見てそんな事を考える。
ただ、明日からは普通に夕香って呼びたいけどな。
それも滝田の、儚い願いだ。
夕香がまた云ってと一言云うだけで消えてしまうほどの。
自分はよくよく夕香に弱いらしいと思って、滝田は夕香を抱き上げた。
ぎゅっとしがみついて来る夕香が愛しくて―――ベッドに寝かせた。
夕香を見下ろす。
ふわふわした柔らかい髪がシーツに広がっていて、滝田はそれを眺めて云う。
「ずっと続く、永遠なんて気持ちはいらない」
「うん」
「次の一瞬も、その次の一瞬も、君を愛するだけだ」
世の中には不幸が溢れて不安に満ちて、人はいつ落ちるか解らない苦痛に向かう穴だらけの道を歩いている。
滝田は願う。
夕香が幸せであるようにと。
ずっと自分の側に居て欲しいけれど、もし夕香が離れて行ったとしても幸せであって欲しい。
「君には、ずっと笑っていて欲しいよ」
「うん」
夕香は頷いて、滝田に手を伸ばした。
「そうだね」
たった一言呟いた夕香の言葉が、滝田の胸に染みて行く。
「君に会えて、僕がどれだけ浮かれた気分で生きてるか知ってるか?」
「知ってるよ。あたしよりは少ないんじゃない?浮かれ具合」
ああ、そうか君は―――。
「そんな事もない」
「そう」
微笑む夕香を抱き締める。
「また、浮かれて提案してくれよ。色々と」
浮かれてるんだな。
「任せとけー」
滑らかに広がる夕香の髪と頬を撫でてから、滝田は電気を消した。
当たり前に、ごく普通の日常として彼女を愛せる事が、何より幸せな夜だった。