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云って、欲しい。
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云って、欲しい。-1

またね、と云って欲しい。

滝田の言葉に、夕香は首を傾げる。

教師と生徒だった滝田慎一郎と相川夕香の二人は、夕香が高校を卒業し生徒ではなくなって、今では只の恋人同士になっていた。

当たり前に滝田の部屋で夕香はくつろぐ。

これを人は幸せな光景と云うのだろう、とほのぼのした気持ちになる滝田だ。

「なんでまた?」
「まあなんとなく、安心するからかな」

滝田は夕香を見つめて、目を細める。

「また、っていうのは、良い言葉じゃないか」

また会おう。
またね。
また明日。

それは叶うか解らない約束だ。

だが、不安に弱い生き物である人間は、それに縋りたくなるのだ。

嘘でも誤魔化しでも。それでも安心したい。

「ふうん?まぁ良いよ。慎ちゃんの云う通りにしよう」
「ありがとう」

高校を卒業して、体を重ねてから―――夕香は滝田を慎ちゃんと呼ぶようになった。
滝田は微笑んで夕香の頭を撫でる。

ふわふわと手触りの良い髪に触れると、滝田の気持ちは上向いて行く。

「じゃあ、あたしからもお願い」
「ん?」

あたしを好きって云って―――そんな当たり前の事を云う夕香ではないから、滝田は少し緊張して言葉を待った。

「一度さあ、あたしを夕香ぽんって呼んでみて」
「は―――はあ!?」

全く、この子は予想がつかない―――滝田は自分の読みがある程度当たったのは嬉しかったが、もう少しまともな内容であって欲しかったのは事実である。

「慎ちゃん、夕香ぽん、って呼び合ってみようよ」
「それ、本気でやりたいのか?」

おう、本気だ―――そう云って夕香は笑う。

なんでそんな提案を、と問い詰めたくなったが、滝田はそれをしなかった。

思いついたらすぐに実行するタイプの夕香のこと、どうせ面白そうだとかそんなあってないような理由しかあるまい。

とりあえず、夕香は自分をからかって遊んでいるだけなんじゃないかと思い至り、滝田は苦笑する。

「解ったよ。呼べば良いんだろ」

ふう、と深呼吸を一回。

「愛してるよ―――夕香ぽん」

ぶっ、と夕香が吹き出して、腹を抱えて笑い出した。

「やだもう、最高。先生」

気を抜くと夕香は―――いや夕香ぽんは先生って呼ぶよな。

そう云うと、夕香はどんどんと床を叩いた。


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