云って、欲しい。-2
「いやぁ、あはははっ、ふっ、普通に云わないでっ」
どうやら夕香の笑いのツボを刺激したらしい。
どうせ恥ずかしい思いをするなら、ウケた方がまだマシだと滝田は思う。
「そんなに面白いの?」
夕香は息を整えながら涙を拭い、幾度か首を縦に振った。
「ああ面白かった。ありがとう慎ちゃん。またやってね」
またやってね。
またね。
「ああ」
滝田は頷く。
またね、というのは願いだ。
叶うか叶わないか解らなくても、そうであって欲しいと願う気持ちの表現だ。
夕香は云う。
自分がいつまで滝田を好きであるのかなど、そんな事は解らないと。
それは真実だ。
だがその真実は不安要素であり、正直な夕香が好きだとは云え寂しくなる。
だから願う。
願いはたいてい儚くて、霞んで、力なんてないけれど。
「好きだよ、慎ちゃん」
そう云ってから夕香は鞄を漁り、飴の袋を取り出した。
「これね、ライムキャンディなの。外国の飴屋さんの商品なんだけど、日本にも支店があってね。そこで普通に売ってたんだ」
袋には鮮やかなグリーンの飴が詰まっている。
「なさそうだと思ってたけど、日本でもある所にはあったんだよ。たくさん」
一粒もらって、滝田はそれを味わう。
甘さ控えめで美味しかった。
「あたし、慎ちゃんと普通に会って普通に一緒に居られて、凄い幸せだよ」
照れたように頬を染めてそんな事を云われたら、何でも云う事を聞いてやりたくなるじゃないか―――。
滝田は笑う。夕香が好きだと云う顔で。
「君の笑顔はね、可愛すぎて卑怯だよ」
そう云われて、夕香は真っ赤になって滝田に抱き付いた。
「そんな事云う慎ちゃんも、充分卑怯だけど」
「じゃあ、もう云わないで良い?」
「駄目。また云って」
滝田はすぐ側にある夕香の頭を撫でて、そっと唇を重ねた。
飴があるから、夕香にはさぞ甘いキスだったろうと、滝田は口内の飴を転がして思う。
「今日も大好き、慎ちゃん」
「ありがとう、夕香ぽん」
その言葉で、夕香は弾かれたように笑った。