告白前夜-1
肌にあたる風もずいぶんと涼しくなった。色付いた木々の葉は暖かい季節を惜しんでいるかのように散った。淋しくなった木々の枝はもうすぐ雪も降って冬の花を咲かすだろう。
秋深まる季節のなか、あたしは彼女に会える時を待っていた。期待よりも大きい不安を抱えながらもあたしは彼女にあえば何かが変わると信じていたかった。
『告白前夜』
『それでね、駅前に新しいお店ができたんですけど、それがすごい可愛い雑貨屋だったの。』
あたしは須藤涼子。ごく平凡な生活をしている高校生。
不審に思われていないだろうか?気付かれていないだろうか。そんなことばかり気になってしまう。
あたしは登校の時にも平常を装いつつも、内心は穏やかではなかった。思い出したくないけれど、あたしは部活の後輩に告白されてしまった。キスされてしまった。あたしは本当に彩夏さんの事が好きだったのに。
あたしの思いが彼女に届かなければ、あたしは彼の告白に応えてあげなければいけない。
そんなことは嫌だと思う。だけど彼女はあたしの気持ちを知ったらどう思うだろう?嫌われてしまうのかと不安がよぎる。そんな事があたしの頭の中を何度も駆け巡っていた。
今あたしはその想い人、彩夏さんとバスに乗って登校中。
『へえ。じゃあ今週の日曜に行かない?あたし、今週末はオフなんだ。』
隣の彩夏さんはまさか、あたしが彼女のことが好きだと想いもしないだろう。 彼女はいつものように話し掛けていた。
『えっ!?彩夏さんからそう言うの珍しいね。』
『まあね。ほら、もう学校着くよ』
彩夏さんはそう言いながら、あたしの手を引いて、バスを下りた。
教室に入ると、男子の騒がしい話し声が響いていた。もうすぐ期末考査があるらしく、教室の中はやけにその手の話題で盛り上がっていた。もっとも悲惨めいた声がほとんどのようだったけど。
あたしは試験の事なんて今は正直どうでもよかった。後輩からの告白と友達への告白。あたしの心の天秤が不安という重しで右へ左へと傾き続ける。
『涼子ちゃん。お弁当一緒に食べよ。』
何時の間にお昼の時間になったのだろうか。あたしは授業を単純作業としてしかこなしていなかったし、自分がお腹がすいているのかも分からないでいた。
だから彩夏さんがあたしの事を呼んだ時、やけに驚いてしまった。
『涼子ちゃん元気ないね。大丈夫?』
そうあたしを心配するのは千鶴で、彩夏さんの後ろから首を伸ばしてあたしのことを見ていた。千鶴は彩夏さんと同じバスケ部で部長をしている。彩夏さんとの付き合いも長いからか本人よりも案外彼女にはあたしの思惑は知られているのかもしれない。
『だっ。大丈夫だよ。ちょっとボーとしていただけだから』
あたしは慌てて千鶴に応えた。千鶴は時々勘が鋭い時がある。あたしはその度にドキッとした気持ちになる。
『ふぅん。それならいいけど』
少し考え込むような表情を浮かべながらも、千鶴はそれ以上の追求はしてこなかった。
『あっ。そうだ千鶴も一緒に出かけない』
あたしはさっき彩夏さんに誘われたことを思い出し言った。
『あっ。あれはね。涼子ちゃん。』
するとやけに慌てた様子で彩夏さんが話し掛けてくる。あたしは訳が分からなかったが、千鶴はそれを見て何らかを察したようだった。
『あっ。あたし今週はちょっと用事があって無理かな』
『えっ?』
思わず彩夏さんと声を重ねて言ってしまった。
『何二人して驚いているのよ』
彩夏さんと声が重なったことを指摘されると余計に気にしてしまう。
でも、なぜか焦っているのはあたし一人ではなく彩夏さんも何だか気まずそうな顔をしている。やっぱりダメなのかなあたし。