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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第7話・舞台という名の戦場》-1

日ノ土高校、購買前。
疾風は悩んでいた。
弁当だけではもの足りず、パンを買おうとして、100円のアンパンにするべきか、150円のクリームパンにするべきかで悩んでいる訳ではない。
確かに50円の差額を甘く見ることはできない。
だが、彼の今の悩みはそんなことではない。
彼の悩みは先日、先輩の朧に演劇に出てくれと頼まれたことだった。

(演劇って言われてもなぁ…俺…演技なんかできないし…)

妹と違い、正直言って演技に自信は無い。
幼い頃の学芸会やら何やらでも、微妙な脇役しかやってこなかった。木の役…とまではいかないものの、一言で終わる一般大衆などである。

(プロとして、できる限りの依頼は請けたいんだけど…)

疾風としては倫理、道徳に反しない依頼には、力になりたかった。

(…できそうな役ならやってみるか…)

朧の真摯な瞳を思い出し、疾風は決心した。
ついでに景気づけにちょっと奮発してクリームパンにすることに。
疾風の前には一人。クリームパンも一つ。

「クリームパン下さい」

疾風の前の人物がそう言って代金と引き換えにクリームパンを持ち去っていった。

「何にする?」

疾風の番。

「…アンパンで…」

《第7話・舞台という名の戦場》

◆◇◆◇◆◇◆◇

その日の午後。演劇部部室。今日は休みのようで、霞と朧の二人しかいなかった。

「月路先輩、演劇のことなんですが…俺、素人ですからできそうな役柄なら引き受けます」

疾風は単刀直入に言った。
己の力量外の仕事を請け負うのは自分を危険に晒し、期待してくれる相手からの信頼も失う覚悟もしなくてはならない。
よって、これが疾風が仕事を請け負う最低限の要求だった。

「はい、大丈夫ですよ♪疾風さんには主役の仮面忍者のアクションをやってもらいたいんです」

朧は少し不安げな表情の疾風を和らげるかのように、にっこりと微笑んだ。
なるほど…
要するに、俺はスタントか。
内心で納得。
それならば台詞もあまりいらないし、仮面の忍ということはある程度の実力を出してもバレないだろう。

「依頼承りました」

心の中でそう思った疾風は依頼を承諾し、頭を下げた。
すると朧は笑顔をさらにほころばせた。

「よろしくお願いしますね♪稽古は明日の帰りからしますから♪」


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