光の風 〈波動篇〉-1
国王の右腕として長く政治に関与し評価が高かった秘書官、サルスパペルト・ヴィッジの葬儀が今回の嵐による死亡者と共に執り行われた。
あくまでサルスの名は伏せて、被災者をメインに執り行われた葬儀。カルサとしてサルスは出席し、静かに冥福を祈った。
その姿を直視できない人物がいたのは言うまでもない。
あの後、カルサとなったサルスの言葉どおりに事実はすり替えられ、誰も何も語ることはなかった。
今でもまるで夢だったかのような感覚でもある。むしろ夢であってほしかった。
「未だにオレ信じられない。」
式典の終わった後、それぞれの正装姿のままでカルサの私室に集まっていた。長い沈黙の中、最初に声をだしたのは貴未。
その言葉どおり皆の表情は暗い。カルサの部屋に集まったのは貴未、聖、紅奈の三人だった。誰も腰を下ろす事無く立ち尽くす。
「紅奈。自分その場におったんやろ?」
「せやけど、うちが見たんは最後の方やったみたいやからな…。」
あの出来事はすり替えられた事実に消されてしまったが、紅奈が話さなくても貴未や聖にはカルサがカルサでないことはすぐに見破られてしまっていた。
しかしサルスから何も告げられることはなく、災害の後始末や葬儀の準備などで慌ただしく時間は過ぎ、式典が終わり自動的に皆ここに集まってしまったのだ。
それぞれの状況もまだ分かっていない。
「貴未。ナタルの具合はどうなん?」
紅奈の問いに貴未の表情は一気に厳しいものへと変わった。なかなか言葉をだそうとしないあたりからも状況がよくないことが分かる。
「難しいよ。」
貴未がカルサのもとに戻れなかった理由、それは負傷した兵士を救護班に引き渡す作業をしていたからだった。貴未の力でナタルを救護室に運んだときも、すでに多くの兵が手当てを受けていた。
中でもやはりナタルの傷はひどく、女官の応急処置じゃ間に合わないため医者を呼びに行き、やっと処置をしてもらえていた状況だった。
ナタルの左腕は失われ、左足は何とか切断は免れたものの回復にはかなりの時間がかかる。彼の軍人としてのキャリアは断たれてしまった。
初めて詳しい状況を知り、聖と紅奈は言葉もなかった。共に軍人として過ごしてきた日々、いつこういう状況になるか分からないと思っていても煮え切らない思いがある。
「それほどまでに強かったんか?」
聖の言葉に貴未と紅奈は思わず動きを止めた。脳裏に甦る残像、今思い出しても何とも言えない気持ちになる。紅奈は千羅達の姿やヴィアルアイ達の戦いを、貴未は見たこともない傷で倒れた兵士や有り得ない戦いの跡を頭の中で甦らせていた。