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光の風
【ファンタジー 恋愛小説】

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光の風 〈波動篇〉-8

「千羅、何か感じない?」

のどかな町を高台から見下ろしながら瑛琳は千羅に尋ねた。空はどこまでも青く、空気もすがすがしい。

自然と共存しているこの町は煉瓦造りや石畳の道が印象的だった。どこからかパンを焼く芳ばしいかおりが漂ってくる。

とても平和で暖かな町。

「千羅?」

「いい町だな。のどかで、暖かくて、平和そのものだ。きっとこんな町は戦いを知らないんだろうな。」

瑛琳の質問に直接答えず千羅の目はどこまでも穏やかな町並みに釘付けだった。教会の鐘の音が辺りに響き渡る。

千羅の表情はとても優しく、そしてとても切ない。瑛琳は黙って彼を見つめることしかできなかった。

「オレさ、こんな町にあいつを住まわせてやりたいよ。自由に両手広げて生きれるような場所に。」

それは誰の事を指しているのか瑛琳にはすぐにわかった。戦いとは無縁の世界でただがむしゃらに一度きりの人生を悔いなく楽しく生きる。そんな人生を歩ませてやりたい人がいる。

何者にも追われず、何者にも責められない、豊かで平和な暖かい暮らし。望む事は誰でも自由なはずなのに。

「理不尽だよな、本当。」




風が切ない声を余計に悲しくさせた。

「こんなにも強く望んでいるのに、どうして叶わないんだ?おかしいだろう!」

気持ちの高ぶりからおもわず声を張り上げた。封印された仲間を目の当たりにして動揺したものの、すぐに封印を解く鍵に使命感を持った瑛琳とは違う。

やるせないのだ。次にするべきことなんて当たり前のように分かっている。でも行動に移っても感情が溢れ出てしまう。

悔しい、あの時もっと自分に力があれば。悔しい、どんな事言われてもカルサの傍にいれば。もっと彼の警戒音の意味を探っていれば。もっと。言い出したらキリがない。出てくる言葉は悔しい、悔しい、悔しい、悔しい。

ぐるぐる回る感情は止めることもできず、どんどん体を満たしていく。吐き出す術は涙しかなかった。

「守れたはずなんだ!オレさえ気を付けていれば守れたはずなんだ!!!」

握り締めた拳はやがて地面に感情をぶつけ始めた。何度も何度も気が狂うようにぶつける。

見ていられなくなった瑛琳が抱きしめて止めようとした。しかし瑛琳の体温を感じても拳はとまらず、少しずつゆるやかになり、脱力する形で終わりをとげた。

「ちくしょう…。」

押さえきれない涙が千羅の頬を濡らす。ゆっくりと体を瑛琳に預けた。目を閉じて甦るのはあの光景。

胸に刺された呪縛の剣、やけに穏やかな顔が頭から離れない。

「これで眠れる。これで終わるんだと…あいつ言いやがった。」

もう、オレを起こさないでくれ…

千羅にはカルサの胸の内が聞こえていた。大切な仲間が体を貫かれた姿で安堵を手に入れたなんて。そんなに辛い事はない。

「誰があいつにそんな事言わせるんだよっ!オレ達の思いは…届かないのか…っ!?」

涙が止まらない、切ない気持ちも止まらない。光の神が自ら闇に堕ちる事を望むなんて。あの表情が頭から離れない。


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