光の風 〈波動篇〉-6
「離れないようについてきてくれ。」
そう言うと再び歩き始め、片手で壁をつたいながら何かを呟き始めた。徐々にまわりの景色が歪み始める。反射的に貴未はサルスの肩を掴み、紅奈は貴未、聖は紅奈の肩を同じように掴んだ。
下っていた階段の景色が変わり、古ぼけた石垣の塔は美しい大聖堂へと姿を変えていた。いつしか階段はなくなり足場は広くなっている。
「なんやこれ…。」
三人の心境を代表して紅奈は呟いた。高い天井、階段を下りてきた高さそのままがこの大聖堂になっているようだ。ちょうど目の高さまである階段を上れば祭壇のスペースなのだろう。火を灯されたロウソクがかすかに見えた。
「カルサはあそこ?」
階段の向こうを指差し貴未はサルスに聞いてみた。十中八九答えは分かっていたが、やはりサルスは静かに頷いて階段を上った。三人もそれに続く。
少しずつ視界に祭壇が映し出された。
「結界が施されている、ここから先は進めない。」
登りきって数歩したら立ち止まりサルスは三人を静止した。およそ3M先にカルサがいるのに誰もそこへは近付けない。でも例え結界がなかったとしても近付けなかっただろう。
彼の胸には戒めの剣が今尚突き刺さっていた。祭壇の前で寝かされた彼に突き刺ささる剣は何よりも三人を戒めた。
誰もが言葉を失い立ち尽くしている。
「リュナをかばってカルサが封印された。次にリュナも水晶玉のなかに封印されてしまった。リュナの行方は分からない。」
サルスの言葉が遠くに聞こえる。あまりの衝撃の強さに三人とも固まったままだった。あんなにも重そうな剣が確かにカルサの体を突き刺さしている。
「生きてる、よな?」
とても生きている様には見えない。あれがカルサなのかどうかも疑ってしまうくらい、今いる状況が信じられなかった。貴未の言葉にサルスはゆっくりと低い声で話し始める。
「封印されたと、彼女は言った。難易度の高い封印で、少し間違えていたら確実に死んでいたらしい。」
「彼女?」
コトッ
後ろで物音がして一斉に振り返った。階下にラファルが座ってこっちを見ている。彼の口にくわえられているものは小さなビンだった。
「ありがとう、ラファル。彼はこうやって聖水を持ってきてくれるんだ。」
上ってこないラファルの所までサルスは歩き、ラファルの口からビンを受け取った。確か以前、カルサがふいに連れて帰ってきた聖獣。だいたいはカルサと共に行動し、そのおとなしさは皆もよく知る程だった。
紅奈たちも触ったことは何回もある。