光の風 〈波動篇〉-4
「サルスはこうなる事知ってたんやろかな。あんな事するっちゅうんは、やっぱそういう事やんな。」
「どうだろうね。」
「どっちにしても最悪に対しての備えを用意してた、しかもかなり前からっちゅうこっちゃ。聞いた話によると昔は双子みたいに似てたらしいで、あの二人。」
聖の言葉に貴未と紅奈は固まった。初めて聞く事実だからか、それとも聖と紅奈も双子だからなのか、意外だったからなのか。
双子のような二人は今では全く違う顔つきになっていた。サルスの額に刻まれた印は、封印の時に刻まれるものだった。
おそらくサルスは自身の姿を少しずつ封印して今の仮の姿を作り上げていたのだろうと、紅奈は告げた。ナルの話ではサルスの瞳は昔から茶色だったらしい。彼の唯一の真実である瞳も今では金色に染まってしまった。
「ほんまに小さい頃から。あいつは影に徹してたんやな。」
カルサの為に自分の姿を消して、仮の姿で生きてきたサルス。本当の姿を取り戻した時は自分の存在を消してしまった。
その強い意志がどこからくるのだろう。その思いを貫くにはどれほどまでの信念が必要なのだろう。
知らなかったサルスの生き様に三人は言葉も見つからなかった。
しばらくの沈黙が続いたあと、扉の開く音が部屋に響いた。三人はゆっくりと扉の方を見る。そこには、部屋の主であるカルサの姿があった。
「サルス…。」
貴未の声に彼は哀しげに微笑んだ。止めていた足を進め、ゆっくりと部屋の中の方へ入ってゆく。その様子を三人は黙って見ていた。
軽く俯いた顔は表情を見せない。少しずつ近付き、そのままの速度で両手を広げ、一番手前に位置していた貴未に抱きついた。
伏せたままの顔は貴未の肩にうづくまっている。抱きついた体は少し震えていた。迷わず貴未はサルスを抱きしめる。
「馬鹿だな、お前…こんなことして!」
やりきれない思いを言葉にすると自然に腕に力が入った。しっかりと抱きしめたサルスの体は少し弱々しかったのかもしれない。いつものカルサでなければ、サルスでもなく、まだあの出来事に動揺や不安を抱えた内側のサルスがでていた。
「ほんまやで。このアホが…何でも一人で決めてからに。」
「ほんまや。」
口々に文句を並べながら二人はサルスのもとに近付き、体に触れた。仲間のぬくもりに触れたサルスはゆっくり体を起こし顔を上げる。
もっと怒鳴られると思っていた。叫びながら説明しろと食いかかってくると思っていた。しかし、部屋に入ったサルスが見たのは、どうしたんだと。心配そうな三人の表情だった。